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黄金獅子の下に
黄金獅子の下に 2
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り替える。足元に二度三度と噴射して色を確認すると、まるで刷毛で塗っているかのように線の際に噴き付けていく。
 同じように船体のカーブを計算して濃淡をつけ、仕上がりはまるで平らな面に描いたようだった。これがコンプレッサー一台だけでの仕事とは何度見ても信じられない。
 グリムの役目は作業がしやすいようにゴンドラの位置を動かし、ホースが邪魔にならないように退け、塗料の色や、必要に応じてさらに小さな噴霧口に付け替えるだけだ。
「……こんなもんか…どうだ?」
 ベッカーが振り向けば、下にいるニューマンや、ドックの二階にいるハートマンが腕で丸を作った。
「じゃ、いいだろ。とにかく描いてありゃいいんだしな」
「とにかくであの出来なんだから……」
「主任には適わないです」
 ゴンドラから降りるとベッカーは邪魔臭そうにマスクを剥ぎ取った。
「別に特別なことはしてねえだろうが。図面通りに塗ってるだけだよ。俺のハンドピースだけ特注ってわけじゃねぇし」
 自分でも見上げて描いたばかりの国章を確認する。帝国の軍艦には識別番号は書かれていない。そのかわりに帝国国章が描かれている。
 母艦や輸送艦のように艦艇そのものが大きければ、それに合わせて図案も大きくなる。平らな面も広い。実際ベッカーも描いたことがあるが、本当に真っ平らな面で「つまらねえ」という平らな側面以上に素っ気ない感想を述べた。
 ニューマンらが作業する時は輪郭線近くまではコンプレッサーを使うが、境目は刷毛を使う。ベッカーにしてみれば「刷毛の方が百万倍くらい難しいぞ。刷毛目が残るし、重ね塗りすりゃ、どうしても塗りムラができる。お前らってすごいよ、俺には出来ねえ」となるのだ。
「ま、コンプレッサーだけで仕上げるから仕事は早いけどな」
「仕上がりもいいですよ」
「ええ、主任の描いた国章は美しいです」
「ははん、お前ら、いくら煽てたって奢らねえよ」
 それで終了とでも言うように、コンコンと自分が乗っていたゴンドラを叩く。
「それに国章の出来はは戦艦の戦力とは関係ないからなあ。ほら、だから俺の給料もこの年になっても安いだろ?」
 ベッカーの苦笑いに、同調すべきかどうか、グリムらは顔を見合わせた。
 毎日のように塗装を終えた艦艇に、最後の仕上げでもある国章を描き、黒色槍騎兵の塗り替えでのロスも残業でどうにか調整できた。
 式典に帝国艦隊全艦を並べようというわけではないので、納期には間に合いそうだ。自然とマクシミリアンが怒鳴り込んでくる回数も減る。
 ドック内の空気に殺伐としたものがなくなってきた頃だった。
「……こりゃ、また……」
 ドックに固定されている艦を見てベッカーはあんぐりと口を開けたままになった。
「綺麗ですね」
 グリムも感嘆の声をあげる。そして、同じように目を見開いて見つ
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