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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百四十一話 一波纔に動いて
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国家の重臣で有る以上、こういう事が起きるのは仕方ないと理解はしている。でも、他の人達はどうなのだろう。私と同じように夫を待って眠れない夜を過ごしているのだろうか。
ドアが静かに開いた、夫が足音を殺して部屋に入ってくる。多分私を起こさないように気遣っているのだろう。眼を閉じて寝たふりをする、夫に無用な心配をさせたくない……。
衣擦れの音がする、ガウンを脱ぎ終わった夫がベッドにそっと入ってきた。眠らなくてはいけない、そう思った時だった、夫が小さく溜息を吐くのが聞こえた。眠れなくなった、夫が苦しんでいると思うと身体が不自然に強張る様な気がするし、呼吸も苦しい。
そのまま時間が過ぎた、五分? 十分? 突然夫がクスクスと笑うのが聞こえた。
「寝たふりは下手だね、ユスティーナ」
「……気が付いていらっしゃったの」
どっと身体から力が抜ける感じがした。
夫に視線を向けると夫は身体を私の方に向けていた。顔には穏やかな笑みが有る。私の好きな穏やかな、優しい笑み。私も夫の方に身体を向ける。
「心配しなくて良い。厄介な事ではあるが今すぐどうこうというわけではないから」
「でもさっき溜息を吐いて……」
「ああ、思うようには行かないと思ってね。なかなか手強い」
夫がまた溜息を吐いた。
「貴方でも思うようには行きませんの?」
「?」
「皆、貴方には出来ないことは無いと言っていますけど」
私の言葉に夫は笑い出した。
「思うようにいかない事ばかりだ。私の周りには喰えない人間ばかりいる」
「まあ、そんな人が居ますの」
夫が私を面白そうに見ている。
「ああ、寝たふりをして私を騙そうとする君とかね」
「まあ」
「こっちにおいで」
夫が笑いながら私を抱き寄せた。狡いと思う。本当に喰えないのはこの人、いつもこうやって私を思い通りに操るのだから……。
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