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霊群の杜
姑獲鳥
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な予感、とでも申しましょうか。これから毎日、御身内がいらっしゃるようですねぇ。…個室にお世話になっているようですし、泊まり込みなさってもご迷惑はおかけいたしますまい」
言葉を切って、奉は口の端を少し上げて微笑のようなものを作った。
「鴫崎の子供を」
奉は医師の細い瞳を、まじまじと覗き込むように凝視すると、ぐいと頭を下げた。
「よろしく、お願い致します」
ばさり、と蓬髪がかかった頬が、僅かに吊り上がったのを、俺は見た気がした。




診察が始まると、俺と奉は廊下に出た。
産婦人科で男の二人連れは少し異質な存在感を醸し出す。既に妊婦の身内や友達から、少し咎めるような視線を送られていた。
「なんか、良からぬ目的の二人連れみたいで厭だな」
冗談交じりに呟いて奉の方を見ると、この野郎すげぇニヤニヤしてやがる。
「…お前か!!その表情のせいか!!」
こいつがニヤニヤしているから異質さに拍車をかけていたのか。お前ふざけんな。
「その笑いやめろ、二人連れの痴漢みたいに思われてるぞこれ」
「そうだな、俺たちがここに居ると却って怪しいねぇ。それより来い、面白いもの見せてやる」
奉は俺を軽く顎で促すと、すたすたと歩きだした。


「いいのか?お前が云ったんだぞ、常に誰かつけておけと」
ずんずん先へ進む奉を追いかける。医師も患者も見かけない病棟の死角とも云える北向きの一角を、俺たちは歩いている。…そもそも病院内など用もないのにウロウロすること自体少ないが、それにしても…驚いている。こんな人気のない場所が、この病棟内にあったなんて。やたら折れ曲がる割には分岐もなく、途中に部屋もなく、まるでこの一角は巨大迷宮の一角のようだ。
「しばらくは大丈夫だろうねぇ」
「訳が分からない。何でだ」
「…ここから先は、静かに歩け」
短く云って、奉は慣れた様子で足音を消して階下に降りていく。やがて地下に続く階段の前についた。我知らず、声が低く小さくなった。
「これ以上は駄目だぞ、『関係者以外立ち入り禁止』だ」
「だから、面白いんだろうが」
奉は羽織の袂から銀色の鍵を取り出した。そして俺を顎で促すと、暗がりに身を沈めるようにして階下に降りていった。『非常口』と書かれた緑色のランプだけが、昏い踊り場を静かに照らしていた。



「……何か厭だな、ここ」
何気なく呟いた声が壁に、床に反響して跳ね返ってくる。反響の向こう側に何者かの呻きを聞いた気がして、心臓に錐がささったようにびくりと痛みが走った。薄緑色の闇にすらりと伸びる廊下には非常口の表示のみが静かに光っていた。
「ここは、云ってみれば霊安所だからねぇ」
こともなげに呟き、奉は足音もなく進む。…スリッパでこの芸当はない。本当は少し浮いているんじゃないか。
「……それっぽ過ぎないか?
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