姑獲鳥
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ればいいって云われているだけで。この部屋だって、こんな立派な個室、要るかなぁ…」
「えっと…ゆっくり出来ていいんじゃないすか?」
「お金が心配よ。これから物入りなのに。それに大部屋の方が他の子と話せて気が紛れる」
「…なんかすんません」
―――結局、嫁さんの実家からは『昨日の今日で急には無理』と断られた。そりゃ当たり前だ。明日からは都合をつけて誰かを配置する予定だから今日だけはお前らが入れ、どうせ同じ病院だし暇だろうが。ああそうだ、絶対二人きりになるなよ?やましいことを考えるなよ?…と、酷く念を押された。
「…ったくよ、臨月近い妊婦に何をしろと…」
「しっ、よせよ」
結婚式の席で見たときは、金に近い茶髪でいかにも今どきのギャルっぽい嫁だなと思っていた。しかしこうして改めて会ってみると、髪の色も戻して随分落ち着いたものだ。俺たちと同年代とは思えない。
それはそれとして俺は困惑していた。
俺たちがこうしてビッタリ傍についていることは、確実に歓迎はされていない。切迫早産とやらで絶対安静の彼女に、俺たちの存在は負担をかけてはいないだろうか。話題も尽きたし、そもそも話しかけられること自体がストレスにならないか…。
「鴫崎さん、回診です」
軽いノックの音とともに、男の声が響いた。仏頂面で本を繰っていた奉が、弾かれたように立ち上がってドアノブを勢いよく引く。その勢いに引っ張られるように、小柄な医師が『おっとっと』などと呟きながら入って来た。
…いや、医師というには随分と年若い。医師には違いないのだろうが、俺たちより少し年上くらいの青年だ。インターンだろうか。彼は細い目を更に細めて人のよさそうな笑顔を浮かべた。
「おや、お見舞いの方ですか」
「あ、はい…その…」
突然の展開に俺がもじもじしていると、奉はドアノブを掴んだ手を放してずい、と医師の前に立った。
「失礼いたしました。私は旦那さんの友人で…玉群、と申します」
そう云って、実に慇懃な仕草で頭を下げた。うっわ、どうしたんだ。まるでいいとこの御曹司みたいな物腰じゃないか。医師は細い目を僅かに見開き、居住まいを正した。
「玉群…『あの』、玉群さんでいらっしゃいますか?」
奉は答えず、一瞬だけ微笑を閃かせて頭を下げた。
「私も、別の科ではございますがお世話になっております…最も、そろそろ退院ではございますが」
当たり前だ。お前が産婦人科で何の世話になるんだ。
「大した怪我ではなかったのに、結構な個室をご用意頂きまして…どうお礼を申し上げたものやら」
「いやそんな…良くなられたようで」
医師は莞爾と目を細めた。…いや、元々相当細いか。
「奥さんが同じ病院にいらっしゃる事を昨日、聞きましてね。お見舞いに伺いました。…どうもね、鴫崎は不安を抱いているようなのですよ。厭
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