姑獲鳥
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て来てんだよ、きもいんだよ」
「…持たされたんだよ、親父に」
「息子の友達に花を?きもさ倍増だな!あ、でも菊はポイント高いな、墓参り風で」
重陽の節句が…と言いかけてやめた。説明がめんどい。
「お前はどうしたんだ。病気か」
「いや、俺は」
嫁が切迫早産でな、と少し声のトーンを落とした。
「一昨日から入院しているんだが、まさか同じ病院とはな」
鴫崎は隣の空いている椅子を断りもなく引っ張ると、お誕生席にどかりと腰を降ろした。
「その恰好は配達途中か」
珍しく、奉から鴫崎に声を掛けた。
「これから物入りなのに、休むわけにもいかないからな」
「休め」
ふいに、全員が黙った。…鴫崎さえも。煙色の眼鏡の奥は、やはり図ったように見えない。俺も鴫崎も、息を呑んで奉の言葉を待った。…小梅即興の『パフェ山のぼり』の歌だけが響く。
「父母でもいい。とにかく常に、傍に誰かをつけろ」
「―――なんだよ急に」
ようやくそれだけ絞り出して、鴫崎が水を呷った。
「あまり良くない兆候…だねぇ。だが傍に『常に』身内がついていれば、問題はない」
そう云って、奉はにやりと笑った。
「俺がお前の幸せに貢献してやるのなどこれが最初で最後だ。必ず守れよ」
鴫崎は一瞬、むっとしたような顔をしたが、すぐに身を乗り出して顔を突き付けた。
「…親でも、いいんだな」
「兄でも姉でも友達でもいい」
「…あっちの母さんに、頭下げるかぁ…」
そう言い残して、鴫崎は立ち上がり踵を返した。勝手に持ってきた椅子はもちろん、そのままだ。仕方ないので軽く会釈をしながら椅子を戻す。
相変わらず、実の親は頼れないのか。鳩尾に浅い針を刺されたように、じわりと痛んだ。俺と鴫崎は親友と云い切っていい程に色々な事を話し合った。…親のこと以外は。俺も中学生くらいの頃は人並みに親に不満を持ち『はー、親うぜぇ』などと愚痴ったものだったが、鴫崎はその都度、とても昏い目をした。
やがて、いつしか俺は鴫崎に、親の話をしなくなったのだ。
「……結貴」
不意に声を掛けられて、俺は現実に引き戻された。咄嗟に顔を上げると、正面に座っていた奉が俺を覗き込んでいた。そして有無を云わせぬ口調で、こう告げた。
「明日も来い」
翌日の昼過ぎ。
俺と奉は、何故か鴫崎の嫁の病室にて缶詰状態になっていた。
「…あいつ、信じられない事するな」
「そう云うな、ある意味自業自得だろう」
苦虫を噛潰したような貌でパイプ椅子にもたれる奉と、悄然と布団に潜る鴫崎の嫁。なんだよこの状況。
「なんかごめんなさい、あの人…」
「や、いいんですよ!言い出しっぺが責任とったというか…ははは…」
「急にどうしたのかしら…絶対安静とは云われたけど、別に大したことないの。ただ、出産まで安静にして
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