第九章
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「折角ええこと教えたってんのに」
「何処がええことやねん」
「長生きしってことだけやろ」
「それやったら普通や」
「今時吉本の芸人さんでももっとましなこと言うわ」
「ケチやのう。そんなんではあかんで」
二人に言われてもだ、富美男は悪びれず返した。
「人生人情や」
「ほな後で焼き鳥ちょっと分けたるわ」
「お好み焼きもな」
「烏賊はあかんから気をつけてや」
富美男は何だかんだで情を見せてくれる二人にこう返した、そんな話をしている二人と一匹の後ろには。
大社の社があった、姫はその中でいつものロリータファッションではなく桃色の振袖を着てだった。黄色い振袖の奈々に熊のぬいぐるみを手にして言っていた。
「緊張するわね」
「これから書き初めって思うと」
「うん、それも依頼してくれたのが」
「天下の住吉大社だから」
「緊張するわ」
白い巨大な和紙を前にしての言葉だった。
「しかもよくある巨大な筆でね」
「あんたが今から書くのよ」
「言葉を」
「用意出来てるわよね」
「用意出来ていても」
それでもというのだ。
「緊張してるわ」
「じゃあその緊張をね」
「緊張を?」
「一気に解き放って」
そうしてというにだ。
「書くのよ」
「一気に」
「そう、矢を放つみたいに」
「その勢いで」
「一気に書いたらいいじゃない」
「そうよね」
姫も何だかんだで奈々の言葉に頷いた。
「ここまできたらね」
「書くしかないでしょ」
「そうなのよね。じゃあ」
姫はぬいぐるみを奈々に手渡してから自ら襷を巻いた、そして。
社の人が差し出してくれた巨大な筆、既に墨が付けられているそれをだった。手に取って目を一気に見開いた。そのうえで。
普段からは想像も出来ない素早さでだ、一気でだった。
書き終えてだ、こう奈々に言った。
「よし、これでね」
「書いたわね」
「やったわ」
緊張を解き放った顔での言葉だった。
「今ね」
「ええ、お疲れ様」
「じゃあ後は」
「出店出るの?」
「そうするわ」
ほっとした顔で言うのだった、依頼された書き初めを無事に終えて安堵して。
その姫の仕事を見てだ、上は白下は赤の巫女服を着た瑠璃は驚いて言った。
「うわ、流石ね」
「そうよね、今売り出し中の書道家さんだけあって」
「凄い字書いたわね」
「それも一気にね」
「書いちゃったわね」
「あんなに奇麗な人なのに」
瑠璃は姫の顔も見て述べた、同じく社に縁があってアルバイトをしている友人達と共に。今日の瑠璃は弓道部にいることから神事のアルバイトを頼まれてここにいるのだ。
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