精神の奥底
64 食い違い
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めた。
機敏な動きで通りを歩く客たちを避けながら、狼のように疾走する。
その姿を見た周囲の人々は唖然とした。
速さだけならオリンピックに出るような選手には到底及ばないが、そのキレのある身のこなしは素人であっても思わず見入ってしまう。
目の前に迫るカップルをバックターンでかわすと、 更にスピードを上げる。
「……ウッ」
一瞬だけ身体に痛みを覚えた。
しかし先程に比べれば大したことはない。
この数時間の間にも身体は間違いなく回復している。
戦いを促すかのように、自分を含めた周囲の状況は変化を遂げているのだった。
だがこの一瞬の痛みをきっかけに我に返った。
電話の主を捕まえてどうしようというのだろうか?
恐らくここで直接自分と接触しようとしてきたということは、幹部クラスではなくトカゲの尻尾切り、つまり集団における末端である可能性がある。
敵の正体は1週間近く行動をともにしていた彩斗ですら全く把握できなかった。
ただ分かったのは、何らかの目的でValkyrieやディーラーといった世間一般における“悪”を潰そうとしていること、そして想像もつかない強大な力を持っていること。
1人捕まえたからといってどうにかなるようなものではない。
それに現状、彼ら自体が明白な犯罪行為を行っているわけではなく、普通に考えればディーラーやValkyrieよりも正しい立ち位置にいる。
素直に彼らの言うことに従うのが正解のように感じる。
だが彼らの目的と自分の目的は完全には相容れない。
中身は大して変わらなくても致命的な部分で食い違い、何かとんでもないことが起こるのは目に見える。
しかし現実は悩みが生まれることすら許さなかった。
「アイツか?ッ!?危な……」
Blackberryを見て、探知した動く点と下の階の通路を歩いている人影で一致する者がいた。
しかし集中力を切らしたせいで目のベビー用品の店からベビーカーが出てくるのに気づけなかったのだ。
衝突すれば、自分は大したダメージにはならないだろうが、赤ん坊は無事では済まない。
下手をすればベビーカーの金具で怪我をする可能性も高い。
「クッ!!」
反射的に身体を反らせて飛び上がる。
ベビーカーとそれを引く母親と思われる女性の頭上を通過し、事なきを得た。
かと思いきや全力疾走していた彩斗の身軽な身体はそのまま落下防止の手すりに激突し、勢い余って下に落下した。
「わっ……!」
吹き抜けを落下する光景は周囲の人々も思わず手を伸ばす。
しかし偶然にも目的のフロアである3階の手すりをギリギリのところで掴んで助かった。
「クゥ……」
腕にビリビリとした感覚が走る。
体重が軽いとはいえ、自由落下の運動量も加わって想像よりも強い刺激だった。
彩斗は深呼
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