巻ノ七十二 太閤乱心その四
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「わしはまさに手も足も出ぬ」
「まさに囚われの獣です」
「檻の中に入れられた」
「そうなるな」
一旦瞑目して言った、ここでは。
「まさに」
「関白様、ここはです」
「何とかです」
「大坂に行かれ釈明しましょう」
「関白様に」
「既に徳川殿、前田殿に送る文を書いております」
護ってくれる者達にだ。
「治部殿、刑部殿にも」
「この方々に文を送られ」
「太閤様に今は猶予を願い出て」
「そのうえで、です」
「この方々と共に大坂に入られ」
「太閤様とお会いしましょう」
こう口々に言う、だが。
家臣達の必死の言葉を聞いたうえでだ、秀次はこう言ったのだった。
「いや、そうしてもな」
「そうしてもとは」
「一体」
「もう太閤様は何としてもじゃ」
叔父である秀吉の考えがだ、秀次は今や手に取る様にわかった。それだからこそ自分のことを必死に護ろうとする彼等に言うのだった。
「わしを消すおつもりじゃ」
「高野山に入れられずとも」
「何としても」
「お拾様に跡を継がせる為に」
「そうじゃ、もうわしはあの方にとって愛しい跡継ぎではない」
達観した、しかし悲しみを込めた目で笑って言った。
「憎くて仕方のない敵なのじゃ」
「お拾様が跡を継がれることを邪魔する」
「そうした」
「そうじゃ、ではな」
このことが痛いまでにわかるからこそだった、秀次は。
彼の家臣達にだ、こう言ったのだった。
「御主達は去れ、もうこれ以上わしのところにいると害が及ぶ」
「いえ、それは」
「その様には出来ませぬ」
家臣達は秀次にすぐに言った。
「お供します」
「そうしますので」
「ですからその様なことは言われないで下さい」
「どうか」
「そうか、そうしてくれるか」
秀次は彼等の言葉を聞き再び瞑目する様に目を閉じた。
そしてだ、彼等にこう告げたのだった。
「では好きな様にせよ」
「共に高野山に入りましょう」
「何処までもお供します」
「それではな」
こうしてだった、秀次はすぐにだった。高野山に入れられた。一応蟄居ということだったが大坂においてもだ。
秀吉の近くにいる者達もだ、困り果てた顔で話した。
「これはまずいぞ」
「釈明の機会すら与えられぬとは」
「高野山に入られるとな」
秀次、彼がだ。
「もう終わりじゃ」
「後はどうとでもなる」
「高野山にはそうそう手出しは出来ぬ」
一旦そこに入った者はだ。
「最早な」
「内府殿でも入ることは出来ぬ」
「誰も関白様をお救い出来ぬ」
「忍の者もあそこには入られぬ」
「場所が場所じゃ」
空海が開いたこの山は恐ろしく深い場所にある、山窩と言われる者すら周りの山から入ることは出来ない。紀伊の中でも特に深い。
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