巻ノ七十二 太閤乱心その三
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「お願い出来ますか」
「わかった、ではすぐに書くとしよう」
幸村も家臣達に応えた。
「北政所様にどうか関白様をお護りする様にな」
「では」
「その様に」
「お願いします」
「伊勢に発つ前に」
「何とか」
「出来ればな」
こうも言った幸村だった。
「今日のうちに書いてな」
「そしてそのうえで」
「伊勢に参りましょう」
「北政所様が動かれれば」
「何とかなります」
「すぐに書く」
こうしてだった、幸村は十勇士達の言葉を入れすぐに北政所に対して文を送った。関白のことを常に頼む様にと。
だが、だ。秀吉は。
幸村が文を書いていたその時にだ、ふと気付いて言った。
「ねねに文を送られては厄介じゃな、では」
すぐにだ、北政所のところに行って彼女ににこやかに言った。
「ねね、ちと有馬に行って来るか」
「有馬にですか」
「そこで湯を楽しんでくるか」
こう言うのだった。
「そうしてくるか」
「有馬にですか」
「湯に馳走を楽しんで来るのじゃ」
「また急な申し出で」
「ははは、女房を大事にすることもじゃ」
秀吉は己の考えを隠しつつ北政所に言う。
「たまにはせぬとな」
「では」
「うむ、行くか」
「折角なので」
「ではな」
「行って参ります」
「すぐに行くがいい」
笑顔のまま言う。
「有馬までな」
「湯に馳走を楽しみ」
「ゆっくりとしていよ」
「そうさせて頂きます」
こうしてだった、北政所は有馬に赴きそこで湯や馳走を楽しむことになった。そして幸村の文は大坂においてだ。
秀吉が受け取りだ、彼は読まずにそのまま火に放り込んでしまった。
そのうえでだ、遂に動いた。
秀次にだ、即座に高野山に行く様に言った。その早馬を聞いて秀次の側近達は狼狽して秀次に言った。
「関白様、これはです」
「かなり危ういです」
[このままでは」
「関白様が」
「そうじゃな」
秀次も言う。
「わしに高野山に入れか」
「すぐにでもと」
「そこで謹慎されよとはです」
「まずはそうして」
「そのうえで」
「今のわしはじゃ」
秀次はさらに言った。
「内府殿もどなたもな」
「おられあませぬ」
「治部殿も刑部殿も」
「真田殿もです」
「北政所様も有馬に赴かれました」
「太閤様のお言葉で」
「それで高野山に入るとな」
どうなるかとだ、秀次は自ら言った。
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