遭災弁当
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いね。」
明るい声で言うフィオーナの言葉が、まるで死神からの地獄への招待状のごとく一部の提督たちには聞こえた。
「さて、蓋を開けようか。」
ラインハルトの声で一同は待ち焦がれたように一斉に蓋を取った。もっとも何人かは覚悟の腹を決めた様子で若干タイミングがずれていたが。
「ほほう!?」
「ほ〜っほほっほう!?」
「はっはぁ!!」
「ほ〜う!?」
一同が奇妙な声を上げる。銀製の箱の中にはただ一つ、サンドイッチが入っていただけだからだ。
「なんだ、期待させておいてこれだけか?」
ビッテンフェルトが露骨に拍子抜けした顔を見せる。
「いやいや、あえて一品もので挑むというのも料理界の手法である。こういったシンプルな料理だからこそ作り手の技巧が試されるのだ。さすがはフロイレイン・フィオーナですな。フロイレイン・ティアナとはまた違った趣向で我々を楽しませてくれるのですから。」
芸術家提督の最大限の賛辞にフィオーナは顔を赤らめたが、隣に座っているミュラーはその妻の顔を見て何と言っていいか声をかけあぐねていたようだった。
「ミュラー、卿は幸せものだな。こんな美人の奥方がそばにいて、その手料理を毎日食べられるというのだからな。」
ワーレンが声を上げ、ルッツがその通りだとうなずいている。フィオーナが顔を赤らめるその隣で、当のミュラーは複雑な顔を精一杯得意そうにしようと必死の努力をしていた。
「よし、冷めてしまう前にフロイレイン・フィオーナの集大成をいただくこととしようか。」
ラインハルトが声を上げ、一同いただきますといい、一斉にサンドイッチにかぶりついた。
「・・・・・・・。」
恐る恐る口を付けたティアナはあれっという顔をする。イルーナもアレーナもミュラーもだ。いたって普通だ。辛くも甘くも苦くも無くちょうどいい味かげんだ。
「なんだフィオ。ちゃんとやればできるんじゃ・・・・・ブ〜〜〜ッ!!!」
全く突然にそれは襲ってきた。恐るべき閃光が舌から気道を、鼻を突き破って脳天にまで到達し、目がくらんだティアナは何が何だかわからないままテーブルに倒れ込んだ。体の全機能が口の中に異物が入ってきたことを最大アラートで知らせ続け、ティアナは盛大に中の物を吐き出していた。
「ガハッ、ゴホオッ!!」
みれば隣の夫も日頃の強靭な鉄の自制さはどこへやら、身も蓋もなく体を動かして襲ってくる激動をかわそうと必死の様子だった。額にこれほど脂汗が出ている夫の顔を見たことがない。
それは二人だけではなかった。列席していた歴戦の提督がことごとくもだえ苦しみ、テーブルにしがみつき、痙攣を起こしていた。テーブルクロスは苦し紛れに引きちぎられ、テーブルやいすはひっくり返され、ついには床に倒れ込んでのたうち回る者が続出したのである。ラインハルトは今度は美味いとは言わなかった。彼は
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