遭災弁当
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も、
「いやはや、ロイエンタール提督もお人が悪い。こんなに美人な奥方と一緒になられたばかりか、奥方の料理の才能まで出し惜しみされていたとは。一度そちらに伺って奥方の手料理をいただきながら、酒を酌み交わしたいものです。」
そう素直に賞賛の言葉を言われると、ティアナは体中がむずがゆくなってどうしようもなく顔を赤くしたのである。
「おい、俺は・・・ウップス!流石にもう喉を通らんぞ。昨日、ウウッ!そして今朝でお前の料理の味見を何度したと・・・ウェップ!思っているのだ?」
ロイエンタールが懸命に胃から上ってくる空気の塊を押し殺しながら小声で妻に言う。昨日、そして今朝と二人は寝る暇も惜しんで料理の特訓をし、その結果彼らの家では大量の食材の残骸と汚れた皿がキッチンに積み重ねてあった。今頃は臨時に雇ったハウスキーパーたちが大掃除に汗を流しているころあいだろう。
「わ、悪かったわね。だ、だってこうでもしなくちゃ美味しいものは作れないし、それに、自信なかったし・・・・。」
「まぁ、その、なんだ、ウップ!おかげで俺も面目が保てた。感謝するぞ。そして、グフッ!すまなかったな。ティアナ。」
「ううん、いいのいいの。あぁ、良かったわ。これで一安心よね。私たちの方は。」
「あぁ、そうだな・・・。」
昨日ティアナからフィオーナの『料理』について相談されたロイエンタールは複雑な顔をしていた。まだ脅威がさったわけではない。そのことを知っているのはこの中でも俺を含めて数人なのだと、ロイエンタールは暗然とした気持ちになっていた。
その翌日――。
その次は今度はケンプの妻カトレーナの作ったお弁当が並んだ。日頃花崗岩のような風貌をしている彼はいつになく恥ずかしそうに一同に披露した。
「日頃妻はこのようなものを作り慣れておらんので、卿らの口に合うかどうかわからんが・・・・。」
今度は一同は快哉を叫ばなかった。お互い盗み見る表情にはいずれも「・・・・。」という戸惑いの色がうかんでいたのである。
というのも、食卓に並べられたのは、ダンプリング、カトフェルブッファー、ポテトサラダ、ハッシュド・ポテト等「いも」料理ばかりだったのである。
「これはまずいわ。これを食べていたら、午後の会議の時にきっと異臭や異音がするわよね。」
アレーナが冗談交じりにワーレンにそっと声をかけたが「シッ!」と鋭くたしなめられてしまった。その間にもケンプは自宅の庭にジャガイモ、サツマイモなどの芋を植えて、イモレシピを極めるべく日夜頑張っている妻とそれを家族ぐるみで支えているという話を喜々としていた。
「だから士官学校候補生時代の彼の服装はイモかったのか。」
いつになく冗談を言ったケスラーだったが、周りがクスリともしないのを見て目の前の皿にさりげなく目線を戻して、咳払いした。
その午後、
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