巻ノ七十一 危惧その十一
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「寝るとしよう」
「わかりました」
「さすれば」
弟子達も応える、そしてだった。
天海は自身の床に入った、だが翌朝起きるとすぐに家康に星で見たことを書いた文を送った。
その文を大坂で読んでだ、即座にだった。
家康はその文を焼き捨ててだ、崇伝に己の顔の相を見させて問うた。
「今のわしの相はどうなっておる」
「はい、非常にです」
崇伝は家康の問いにすぐに答えた。
「よいものです」
「そうか」
「はい、これ以上はないまでによく」
「ならよいがな」
「前にも増してです」
崇伝は見たままを述べていく。
「いいものになっています、これはです」
「これは?」
「稀に見る、宋の太祖の様な」
「そうした相か」
「そうなっています」
「そうか、宋の太祖か」
そう聞いてだ、家康は頷いた。実は今話している崇伝が感情的に天海に対抗心を燃やし彼を嫌っているのは知っている、だからここはあえて天海の文のことは言っていない。
「わしの今の相は」
「漢の高祖ではなく」
「そちらか」
「間違っても明の太祖ではありませぬ」
「ならよい、明の太祖はな」
家康もこの皇帝のことは聞いている、確かに英傑であるが。
「あまりにも惨い」
「そうした方でしたな」
「血は流さずに限る」
「ですから殿は」
「宋の太祖か」
「そうした相になってます」
「わかった、そういえば宋の太祖は大酒で死んだ」
弟を己の部屋に呼び二人だけで酒を飲んでいて弟に自分の次の皇帝になれと言って皇帝になった時は断固としてやれという様なことを言ってこと切れたという、とはいってもこの最期については色々と言われている。
「わしも酒は控え身を慎むか」
「それがようございますな」
「わかった、では身を慎みな」
「酒等も控えられ」
「己の身を保とう」
「そうされますか」
「そうか、宋の太祖であり」
天海の文のことも思い出して言う。
「そういうことか」
「?殿一体」
「いや、何でもない」
ここで天海の文のことは隠した。
そしてだ、崇伝にあらためて問うた。
「ところで運命は変えられるな」
「はい、それにつきましては」
崇伝は家康に己の学識から話した。
「人には天命がありますが」
「それは行い次第で変わるな」
「助ける者もいれば」
「それでじゃな」
「人の運命も変わりまする」
それもまた、というのだ。
「この世のあらゆることと同じく」
「そうか」
「左様です」
「ではわしはまず正しきことを行おう」
「と、いいますと」
「関白様は何としてもお護りする」
これが家康の選んだ正しきことであった。
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