巻ノ七十一 危惧その十
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天海は弟子達にだ、暗い顔で言った。
「間違いない、凶兆は近い」
「以前からお師匠様が言われている様に」
「そうなのですか」
「あってはならないことが起こる」
嘆息しつつこうも言った。
「いかんな」
「では」
「上方のことは殿がお伝えになっていますが」
「関白様が」
「あの方が」
「星の動きにはそう出ておる」
まさにというのだ。
「多くの御仁がお助けしようとしているが」
「それが、ですか」
「残念なことに」
「そうなるのう」
言葉の調子は変わらなかった。
「やはり」
「左様ですか」
「ではこのことは」
「殿にお伝えしますか」
「そうしますか」
「うむ、しかしこの星の動きは」
さらに言う天海だった、それを見ながら。
「お伝えする頃にはな」
「手遅れと」
「そうなりますか」
「最悪の事態じゃ」
こうも言った天海だった。
「豊臣家にとっては、しかし」
「しかし?」
「しかしとは」
「いや、何でもない」
ここで天海は将星の一つの輝きが大きく強くなるのを見た。黄色い光を放つそれが。
だがその星のことはだ、今は誰にも伏せていた。
そしてだ、星の動きをさらに見て弟子達に言った。
「一度荒れるかも知れぬがすぐに収まり」
「そしてですか」
「そのうえで」
「天下はまた泰平となり今度こそは長く治まる」
収まる、ではなかった。
「そうなると出ておる」
「ですか、では」
「この度のことは、ですか」
「確かに酷いことになりますが」
「天下自体は」
「むしろ一度荒れた後でな」
それからというのだ。
「よりな」
「よく治まる」
「そうなるのですか」
「星の動きを見ますと」
「そうなのですか」
「拙僧はそう見る」
天海は弟子達にも穏やかで謙虚だ、決して声を荒くすることなく心優しい。このことが崇伝とは違うところだ。それで今もこう言ったのだ。
「大事であるがそれで天下は大いに乱れることにはならぬ」
「では」
「天下の泰平は、ですか」
「一度荒れはしても」
「続きますか」
「むしろ磐石になり」
その泰平がだ。
「本朝は長く平和に栄えることになりそうじゃ」
「それはよきこと」
「民も喜びまする」
「この戦国が終わりそうなるとは」
「まさに」
「全く以てな、では夜も遅い」
星を見終わりだ、天海は弟子達に身体を向けてここでも穏やかに言った。
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