第一章 天下統一編
第九話 招待
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ら食事をはじめたのだろう。それでいいと思う。今の俺を殺しても徳川家に利は全くない。
「駿河前左大将様、これは美味しそうなめざしですね」
俺は顔を上げ笑顔で徳川家康に言った。普段食べれないからこれでも嬉しいといえば嬉しい。
「儂はこれが一番好物でな」
徳川家康はそう言うとめざしを手掴みしかぶりついた。彼は美味そうに咀嚼すると、麦飯を持った椀を取り飯をかきこんでいた。
徳川家康は粗食で有名だったはず。その上、自分で薬を調合して飲むほどの健康愛好家だったな。でも、こんな物を客に出すとは思わなかった。
普段食べている料理よりは豪華だからまあいいか。俺は気分を取り直してめざしを手掴みして頬張った。程良い塩加減で美味い。ご飯が欲しい。俺は食欲に促されるまま麦飯を口に掻き込んだ。
「良い食いっぷりだ。若い者はそうでないといかん」
俺の食べっぷりを見ていた徳川家康が俺に声をかけた。
「めざしが美味しいので飯が進みました」
「気に入ってくれたか。これは三河の海で獲れたものなのだ。相模守にもわけてやるから、帰りに持っていくといい」
徳川家康はそう言うと小姓を呼びつけ「めざしを包んでやれ」と指図していた。
「駿河前左大将様、お気遣いいただきありがとうございます」
俺は頭を下げ感謝の言葉を伝えた。「大したことではない」と俺に言う徳川家康は俺の抱く狸親父とは随分乖離していた。気の良いおっさんにしか見えない。これが演技なら恐ろしい男だと思う。
「相模守、そちは何か嗜むことはあるか?」
「本を読むことが好きです」
徳川家康は興味を持った様子で俺のことを見た。
「どのような本を読んでいるのだ?」
「私は長兄、木下侍従勝俊、と仲が良く。兄から本を借りて読んでいました。万葉集、枕草子、源氏物語。でも、兄の貸してくれる本は私の趣味には合いません。しかし、喰わず嫌いはいけないと思い一通り読んでいます」
俺は苦笑しながら徳川家康に言った。長兄、木下勝俊、の趣味は風流人の好みそうなものばかりだ。だから、本をそれ系統のものになる。長兄は兄弟の仲で唯一学問好きの俺に自分の好きな本を俺に貸してくれる。だが、必ず感想を求めてくるから面倒臭い。お陰で借りた本は一読する羽目になっている。最近は仕事が忙しいから長兄の家臣が持ってくる本に嫌気が出てきている。それでも時々論語などの漢籍を貸してくれるので縁を切れずにいる。
「では、相模守がどんな本が好きなのだ?」
徳川家康は話に突っ込んできた。徳川家康も十分本好きなはずだ。鎌倉幕府の執権として隆盛を極めた北条氏によって編纂された鎌倉時代の記録、吾妻鏡、を愛読書にしているくらいだからな。吾妻鏡は北条氏を礼賛するための記録だから真実ばかりとは限らない
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