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世の中全て
第四章

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「お父さんはあれが欲しいこれが欲しいとか言うかい?」
「そう言えば」
 言われてみればだった、綾子は自分の記憶を辿った。そろそろ四十になろうとするその記憶をである。そのうえで母に答えた。
「ないわ」
「そうだろうね」
「何故かね」
 首を傾げさせつつ言う。
「それはないわね」
「いつもだね」
「お金はちゃんとお家に入れて」
「賭け事でお金作ってだよ」
「遊んでたの」
「借金もしないでね」
「それは本当になかったわね」
 このことも確かである、父にもいつも言っている。
「じゃあギャンブルでなの」
「ギャンブルは無類に強いからね」
「それでお金を作って」
「遊んでたんだよ」
「けれど浮気でしょ」
「それは男の甲斐性だよ」
 やはりおおらかに言う母だった。
「だからあたしはいいんだよ」
「それは違うでしょ」
「違わないよ、あたしはこう思ってるからね」
「だからなの」
「それでいいんだよ」
 こう言うのだった。
「別にね」
「そうなのね」
「そう、あたしがいいから」
 それでというのだ。
「このことはよかったんだよ」
「そういうものなの。ただ」
「ただ?」
「お父さんがお金を作っている理由はわかったわ」
 自分が遊ぶ金を自分でだ。
「ギャンブルで買って、っていうのは」
「博打自体が趣味だしね」
「特に麻雀が強いわね」
「競馬もね」
「何でそんなにギャンブル強いの?」
 綾子が次に疑問に思ったのはこのことだった、それで母に問うたのだ。
「昔から。負けたことない感じだけれど」
「だから欲がないからだよ」
 またこう言った母だった。
「だからだよ」
「それでなの」
「そうだよ、お父さんは欲がなくてね」
「ギャンブルでお金を欲しいって思ってないの」
「それで遊ぶお金は手に入れてもね」
 それでもというのだ。
「最初からお金を欲しいとは思ってないんだよ」
「そのうえで楽しんでるのよ」
「滅多にないらしいけれど負けたらそれで終わりだしね」
「借金までしてせずに」
「それで終わるんだよ」
 下手に続けずにというのだ。
「欲を出さずこだわらずね」
「だから強いの」
「欲を出して勝とうと思わないからね」
「じゃあそれって」
「わかったね」
「お父さんがよく言ういい加減?」
「まあそうなるね」
 母もこう答えた。
「お父さん世の中全部いい加減でいいって言ってるね」
「いつもそう言って遊んでるわね」
 それこそ綾子が物心がついて彼が働いている頃からだ、母が言うには結婚する前からそうしているとのことだ。
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