第三章
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「どうしてかしら」
「それはわしという人間がわかっているからだろ」
「お父さんを?」
「そうだ、わしをな」
「酒好きの女好きの博打好きなのに」
大食漢であることは悪いことでないのでそれはいいとした。
「それでもなの」
「これでも友達は多しな」
「そういえば昔からよね」
「ああ、友達には恵まれている」
「お父さんが面白いからじゃなくて」
「それもあるだろうがな」
彼を見てそして付き合ってみて、というのだ。
「しかしわしを見てだろうな」
「こんないい加減な人いないのに」
「それでもだ、むしろいい加減でいいだろ」
「世の中は?」
「そうだ、所詮世の中いい加減でな」
向山はその達磨の様な顔を綻ばさせて娘に話した。
「冗談だろ」
「真面目なものでしょ、厳しくて」
「いやいや、世の中を甘く見てな」
娘に自身の人生観、世界観も話した、
「飲んで生きないとな」
「飲んでなの」
「思う存分楽しむな」
「そうしたものでないと駄目っていうの?」
「駄目じゃない、楽しめばいいんだ」
こう娘に言った。
「思う存分いい加減に楽しくな」
「それで今日も遊ぶのね」
「これから雀荘に行って来る」
行きつけのその店にというのだ。
「そして楽しんでくる」
「そうするのね」
「ああ、じゃあな」
「それで風俗も行って」
「最後は居酒屋で焼酎と焼き鳥か」
「本当に飲む打つ買うじゃない」
「ああ、それを全部してくる」
笑って言ってだった、向山は立ち上がってむっとした顔の娘に明るくまた来いと言って雀荘に行った。そして店の中で彼のその麻雀の腕を披露するのだった。
向山は娘がどう言っても遊び続け七十過ぎとは全く思えない日々を過ごしていた、しかし綾子も彼女の兄弟達もそんな父に呆れていたが。
綾子達の子供達、向山の子供達は普通に祖父である彼を慕い母も文句は言わない、そして確かに彼の友人は多かった。
そのことがどうしてもわからずだ、綾子はある日だった。
母の美代子にだ、実家に来た時に問うた。
「お母さんお父さんとずっといるわね」
「十八で結婚してからね」
夫が二十歳の時だ。
「その時からずっとだね」
「何で五十年以上一緒なの?」
母に怪訝な顔で問うた。
「あんなのなのに」
「あんなのとはまた随分だね」
「だってあんないい加減なのよ」
「飲む打つ買うでだね」
「三拍子揃ってるじゃない」
まさにというのだ。
「そんな人なのに」
「欲がないんだよ」
「そうなの?」
「よく見てみるんだよ」
こう娘に言うのだった。
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