ー 平和な日常 ー
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える犬耳へと伸ばされ、ふにふにと優しい手つきで弄り始める。 温かな手のひらが柔らかな毛に包まれた耳へと触れ、一旦寒さは和らぐが撫でられる度に感じるこそ痒さはさすがに看過できない。
「落とすぞ」
「えー……もうちょっとだけ」
「はぁ……」
忠告の声を発すれば、背中越しに不満げな声が返ってくる。 痛みが和らぐから、などと言われてしまえば、止めさせるわけにもいかず、今だけはシィのなすがままにされておくとする。 だが、それも少しの間だけ。 いつしか犬耳を弄っていた手はぴくりとも動かなくなり、代わりに小さな寝息が聞こえてくる。
「……寝たか。 まったく、ほんと自由な奴」
ひとりごちると自分の背中に体を預けて眠るシィをなるべく起こさないように気をつけながら、背負い直す。
既に外は暗く、冷える冬の夜を出歩く物好きは他に居らず、自分達以外に動くものはいない。 なんとなしに空を見上げるが、そこには岩と鉄の蓋があるだけで現実で見られるような星はなく、無機質な闇が広がっている。 唯一の光源たり得る外周部から差し込む月明かりも行く先を照らすには心許ない。 その様子はまるで先の見えないデスゲームのよう……
「必ず、帰ろうな」
彼女に聞かせるわけでもなく、ただ一言呟く。
いつ死ぬかわからないこの世界で俺はただ平和な日常を願い、現実へと帰還することを夢に見続け、前へと進み続ける。
ーーただシィと共に帰るために。
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