第五章
[8]前話
廊下で会った慎吾にだ、こう言われた。
「いいことあったの?」
「また言うの?」
「いや、お姉ちゃんの顔を見たらね」
そうしたらというのだ。
「何かね」
「出てるっていうの?お顔に」
「うん、何かね」
「あんたまたそんなこと言うのね」
亜理紗はむっとした顔になって弟に返した。
「だからそうしたことはね」
「言うなっていうんだ」
「いい加減にしないと怒るわよ」
実際にそうした顔になって言う、実は最近までよく弟をいじめて泣かしてそれで怒られてもきている。いささか困った姉なのだ。
「本当にね」
「わかったよ」
「そうよ、余計な推理は無用よ」
「ああ、僕推理してたんだ」
「そう思いたいなら思っていいわ」
「じゃあね」
「ええ、お兄ちゃんが推理小説一杯持ってるし」
亜理紗の二つ上の兄がというのだ。慎吾から見れば三つ上だ。
「読んだら?」
「ホームズとか金田一とか」
「借りて好きに読んだらいいわ」
「それじゃあそうするね」
「それで余計な推理はしないの」
「お姉ちゃんのそうしたことも」
「今度変なこと言ったら本当に怒るから」
また怒った顔で言った。
「いいわね」
「じゃあね」
「それとこのことは誰にも言ったら駄目よ」
弟が察しているのは明白なので口止めもした。
「いいわね」
「うん、嬉しそうなのは」
「内緒にしたら怒らないから」
「そうするね」
「まあとにかく。お部屋に入るから」
弟に怒った後は一転してだ、亜理紗は穏やかな穏やかな笑顔になって言った。
「御飯になったら読んでね」
「夏休みの宿題するんだ」
「ああ、結構あったわ」
夢から現実に戻った、弟の今の言葉で。
「じゃあ御飯までね」
「宿題するんだね」
「作文書かないとね」
「それまだしてないんだ」
「ええ、七月に旅行に行った時のことを書くわ」
今日のことは言うまでもなく書かない、もっと言えば書ける筈がないことだ。二人だけの秘密であるからこそ。
「今からね」
「今日中に終わればいいね」
「ええ、そうしたらかなり楽になるからね」
夏休みの作文は宿題の中でかなり大きなウェイトを占めている。それが終われば宿題の量としても気分的にもなのだ。
「終わらせたいわね」
「じゃあ頑張ってね」
「そうするね」
こう答えてだ、そしてだった。
亜理紗は自分の部屋に入って作文を書いた、今日のデートを思い出しながら別のことを作文に書いたがそれでも気持ちはそちらにあってうきうきとした顔で書いたのだった。ロマンスを想いながら。
秘密のデート 完
2016・12・29
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