第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:彼方の陽だまり
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は元来の効果など望めない。しかし、マップデータに視線を落とすピニオラは口角を吊り上げる。薄緑の光点が示すのはフレンド登録したただ一人のプレイヤー。光点は尾を引いて通路を進み、最奥の部屋を目指しているようだった。記憶が正しければ、笑う棺桶の幹部が顔見せ程度の会合に利用していた場所だと思い至る。プレイヤーの過密なエリアを避けて移動するところには相応の公平性を遵守する態度が見えなくもないが、安全性など無いに等しい。抗う術を持たないみことでは、いつ気まぐれに命を落としてもおかしくはない状況に措かれていると見て相違ない。一刻も早く、しかし手を誤ることなく。不安や恐怖の只中にあっても、ピニオラはそれらの感情を乖離して思考する。一つ先の曲がり角に膠着する三つの光点、一本道を走る一つの光点、広間にて交錯する無数の光点。これまでの人間観察における蓄積が結実してか、ピニオラは淀みない足取りでそれらを通り過ぎる。止まったままなのか、動き出すのか。僅かな揺らぎだけでも雄弁過ぎるとばかりに機微を捉えては切り抜ける。その連続する思考の傍ら、アイテムポーチに手を滑り込ませては二つの硬質な矩形の面を指で撫でる。正体は逃亡用の転移結晶が二つ。潔いものでオブジェクト化して所持するアイテムは、これを除けば気休め程度の薄い着衣と得物であるカランビットのみ。
捕縛作戦の混乱に乗じて潜入し、迅速にみことを奪還した後に転移結晶を使用し、可及的速やかに圏内へと離脱する。
最大限無駄を省き、リカバリーも効かないほどに切り詰めた計画は、追い込まれたからこその発想と言えるだろう。内部の構造に明るいというアドバンテージがなければ、無謀の一言でしか評することの出来ないほど杜撰を極めるものの、むしろ誰もが敵との戦闘に意識を向ける現状に至ってはハイレベルな隠蔽スキルによって気取られないピニオラにとって最善策となる。自身の弱さを知るからこそ、気配を絶って秘密裏に行動する手段こそが、与えられた中で最大の勝ち目だった。
ふと、誰も居ない曲がり角で立ち止まってはマップデータを注視する。
緑の光点、すなわちみことの囚われている地点までは歩いて数メートルという目と鼻の先という位置関係だ。しかし、問題は広間の形状にあった。
みことのいる広間の入口には、扉が備え付けられているのである。
隠蔽スキルによる恩恵で、ピニオラは周囲に音や痕跡を残すことなく、看破さえされなければ視界にさえ映らない。しかし、扉や窓といった可動式のオブジェクトを作動させて広間内に侵入する場合、その扉の動作まで隠してはくれない。ましてやここはデータで構成された空間。心霊現象の介在する余地はないし、そよ風で開くような立て付けの悪さもステータスで設定されていなければ在り得ない。不自然にも扉がひとりでに開い
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