第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:彼方の陽だまり
[2/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ってしまったからこそ、ピニオラはこれまで感じることのなかった後ろめたさを実感することとなっていた。
それまで知らなかったからこそ、感じなかったからこそ、その感覚はどこまでも鮮やかだった。
白黒だった世界の視え方とは対照的な、優しく甘く満ち足りていて、そして痛くて苦しい感覚。
知らないままでいれば苛まれることもなかったが、同時に訪れた得難い幸福を求めて、誘蛾灯に群がるように、これまでの人生では考えられないほどの熱量を以て、ピニオラはかつての同胞の住処へと足を踏み入れていた。
多くのプレイヤーに恐れられ、忌み嫌われる殺人者達の巣窟。
その様相に反して、本来は不気味な静寂に包まれる建造物は、その内部から幽かに剣戟の音が漏れ聞こえる。彼等に似つかわしくない《一方的でない命の遣り取り》の痕跡。どうやら、内部では大規模な戦闘が繰り広げられていると容易に推察できた。アルゴとの接触から入手した情報は真実であったらしい。
一先ずはアルゴへの感謝と、お膳立ての整っている状況に胸を撫で下ろし、ピニオラはすかさずメニューウインドウをポップアップさせる。スキル欄から《隠蔽》スキルのアイコンをタップし、更に分岐するModのアイコンを幾つかタップして大きく息を整えた。
それまでは何の気なしに出入りの叶っていた石造りの出入口から一歩踏み込めば、《笑う棺桶》から除名された自分は違える事なく侵入者だ。発見されれば殺されて然るべき。むしろ、PoHのゲームの延長線上であれば獲物として手ぐすねを引いていることも考えられる。
「………あまり、良い気分はしないですねぇ」
殺す側と、殺される側。演じる側と、創る側。入れ替わった立場を認識させられると、やや気が重くなる。
これまでの無味乾燥な人生感であれば、死ぬことさえ抵抗なく受け入れていたであろう自分では考えられない感情。如何なる理由があれど、今のピニオラは確かに《生》に執着を見せていた。この世界に求めていた空しい死ではなく、誰かと過ごすささやかな時間を渇望していたという条件があってこそだが、それでも劇的な変化であった。小さな変調は骨子を軋み狂わせて、既に《柩の魔女》としての在り方を破綻させていた。
しかし、かつてより今日まで、根底に在り続けた渇望を満たすものを見出した以上、自身の変質などは些事でしかない。
マップデータと《索敵》スキルの併用で周辺のプレイヤーの炙り出しは既に出来ている。それを回避すれば戦闘の危険性を大幅に低下させられる。安全に移動できるであろう通路に目星を付けつつ、ピニオラは速やかに《追跡》スキルのアイコンをタップし、出現した枠に《Dtgstnf》と入力する。
本来であれば、最大で数時間前までの対象の足取りを視界に捉えるスキルであり、数日前に誘拐された相手に
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ