黄金獅子の下に
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った艦が撃沈されることなく、修理の為に戻ってくることもなく、戦果を挙げてくれていればよいと思うだけだ。
だが自分が作った艦に名のある軍人が乗り込んでいたり、勝利して階級があがると、自分が出世したかのように喜び自慢する者もいるがベッカーは馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばしている。
その艦をたった一人で作ったのなら、それを手柄にしてもよいが、一隻の軍艦には大勢の手が掛かっているのだ。自分はその中の、ほんの一部を手掛けたに過ぎない。
「とにかく数が多くて……駆逐艦や巡航艦はどの艦隊も同じですから」
明らかにこちらのミスです、とグリムはベッカーの分まで平身低頭する。内心、だからといって上級大将自らがわざわざドックにまで来なくてもいいだろうに、と思いはするが、ここは早く納得して帰ってもらうのが得策だ。
塗り直しの分、また残業だと思うとため息を吐きたくなる。だが、それは指令書をしっかり確認しなかった自分達の責任なので仕方ない。
「だから黒なんだろうが。誰が見てもわかるように」
「きちんと指定の色に塗装し直しますので」
ベッカーは面白くない、とそっぽを向いている。彼一人のミスではないが、最終段階を受け持ってはいるので部下の仕事の確認をしていなかったのは事実だ。コーティングなら重要だが塗装色なんて見た目だけだろうが、と思うものの、それを言えばベッカーの仕事そのものが成り立たない。
グリムが「早急に塗り直します。はい、きちんと黒で」と何度も頭を下げると、ベッカーの態度はともかく、目的は達成したとビッテンフェルトはその場で脱いだヘルメットを警備員に押し付け、軍靴の音も態とらしいまでに高くドックを出ていった。
「なんの為の警備なんだ? ああ?」
「それは……その…あまりの素早さに……どうも申し訳ありませんでした」
「給料分働けよ」
ベッカーはまだぶつぶつ言っているが、グリムが手真似で早く行くように合図する。ここに警備員がいるということは、警備が手薄になっているし、ベッカーの愚痴が長引くだけだ。
「警備に戻ります。もう二度とこのようなことはないようにしますので」
「あの上級大将を止められるものならな」
ふふんとベッカーは鼻を鳴らして警備員を見送った。
「……寿命が縮まりました」
「こんなことで一々縮めてたらなくなっちまうぞ」
そうベッカーは笑ったが、彼自身、士官以上の階級の人間と話したことなど片手ほどもない。しかも話したといってもほんの挨拶で、ぺこぺこお辞儀をするマクシミリアンの隣で彼の真似をさせられただけだった。
「いや、主任にですよ。上級大将にあんな口を利くなんて」
「じゃあ、お前ならどんな口を利いたんだ?」
「だから……ですねぇ……」
それでもグリムは自分一人がドックにいたとして、警備員を振り切って侵入してきた高級士官を
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