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黄金獅子の下に
黄金獅子の下に
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に声が響く。
「ま、そりゃそうだな」
 ベッカーは微苦笑を漏らしたが、グリムは顔を強ばらせている。
「しゅ、主任……」
 どうして立ったままなんですか、逃げないんですか、グリムが表情で訴えかけていた。
「ん? ああ、それこそ戦斧が飛んでくるわけじゃねえだろ? 見ろ、手ぶらだ」
 なるほど、軍人はオレンジ色の髪を振り乱し、その形相がわかるほどの距離に迫ってはいるが、武器らしいものは携帯していない。
 それに明らかに自分を主任だと知って目指してくるのにどうやって逃げたらよいものか。もし走って逃げたのなら、相手も走るだけだ。
 細い廊下も抜け道も行き止まりも知っている。しかし、今鬼ごっこから逃げ果せても意味はない。
「で、でも……懐にレーザー銃とか……」
「持ってるかも知れねぇな」
 震えながらも自分だけ逃げたりしないグリムを可愛く思う。
「ここは火気厳禁だが、なあに、ゼッフル粒子をバラ撒いているわけでなし……」
 にやにや笑っているのはグリムをからかってのことだが、突進の速度が早まったのは自分が笑われたと感じたのだろう。
「おいっ」
 あっと言う間に目前に立っており、ベッカーの胸ぐらを掴んだ。
 そう体格のよい方ではないベッカーは爪先だちになる。
「あ、あの……ええと…落ち着いて、ください」
 追いついた警備員が二人の回りをうろうろしながら、けれど手を出すわけにもいかず、一人がまだ背後からヘルメットを被せようとしている。
「俺は十分に落ち着いている」
 言っている端から奥歯がギリリと鳴るのが聞こえるのだから、説得力はない。警備員が被せかけたヘルメットは、それに気づいた途端振り落とされた。
「おいっ」
「だから、なんだ」
 興奮するか、うろたえているか、その二極化の中、ベッカーの声色だけが普段と変わりない。
「用があるから来たんだろ?」
「…………」
 男同士、鼻先と額が触れんばかりの距離での睨み合いはそう楽しいものでもなく、しかも互いの温度差が開いていれば尚更だ。
 上着を引っ掴んでいた指が緩む。
 踵を床に下ろしたベッカーは、ちょいちょいと上着の裾を引っ張りととのえた。
「戦斧が飛んできたりはしないが、工具が落っこちてくることはあるから……一応、被っといた方がいいと思うがね」
 足元に転がっているヘルメットを拾い上げ、さすがに自分が被せるには身長的にも立場的にも、何よりも相手の心情的にもまずいだろうと差し出した。
 立ち入り許可も取らず、ドックの入り口から警備員の制止を聞かず、ここまで入り込んだ負い目を、ようやく感じ始めてもいるらしく、面白くなさそうな顔をしながらも受け取る。軍人にしてはやや長いオレンジの髪を強引にヘルメットに収めると、これでどうだ、
とばかりにもう一度ベッカーの胸ぐらを掴んだ。

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