黄金獅子の下に
[2/7]
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
だろ。なんせ───っと」
ベッカーはヘルメットの紐をきゅっと締め直し、グリムも人形のように飛び上がって背筋を伸ばした。
「納期は間に合うんだろうな」
ドックに入ってきたのは工場長のマクシミリアンだった。
「はいっ、それは必ず、間に合わせます」
それまでとは別人のような口調でベッカーが胸を張ったが、マクシミリアンはふんと鼻を鳴らすとグリムが抱えていたファイルを引き寄せた。
「ここと、ここの遅れはどうするんだ?」
工場長がドックにまで来るということは、作業の遅れが報告されているからで、つまりは嫌味を言いにきたようなものだ。
「……それは…今、急ピッチでやらせていますので」
「ふうん……? 一昨日も同じような台詞を聞いたんだが?」
マクシミリアンが血色悪く、目の下にくまを作っていなければベッカーも現場主任として言い返しただろう。だが彼は彼でさらに上から毎日のように言われているに違いない。
その鬱憤をここまで晴らしに来るのだ。わざわざ言いにこなくても、ベッカーらにも納期はわかっているし、他のドックの作業の遅延も伝えられている。
グリム達はベッカーの昔話からは即座に仕事に戻って逃げることができるが、ベッカー自身はマクシミリアンの小言から逃げることはできない。運が悪かったとグリムは諦め、一緒に愚痴の雨に晒された。
「奴の立場もわからんわけじゃあないが、ここでぐだぐだ言ったからって、作業速度が上がるわけでもないのによ。急げばミスが起こり易い。修正は最初からより手間がかかるって知っているくせによ」
マクシミリアンが立ち去るまでたっぷり三十分はかかったであろう。
やれやれ、とベッカーは伸びをした。
「式典に艦隊を整列させるそうですから……」
とばっちりを食らったグリムは扉が閉じるまでは深く腰を折った状態で見送り、それからゆっくりと身を起こす。
「うちだけそれに間に合わない、なんてことになったら大変です」
「そんなこと、俺にだってわかってるさ」
帰る間際にグリムに突き返されたファイルを手に取った。パラパラと捲る。
「だったら、こんな面倒臭そうな───」
今閉じたばかりの扉が勢いよく開いた。
「お、お待ちくださいっ」
「作業中のドックは危険ですので」
叫んでいるのは警備員だ。その腕を取ろうとしたり、前に立ち塞がろうとするが、大柄な軍人は簡単に振りほどき、突き飛ばしてこちらへ真っすぐ突き進んでくる。
「勝手に入られては困ります!」
「せめて、ヘルメットを」
「んなもん、いちいち被ってられるかっ」
後方から差し出されたヘルメットが弾き飛ばされ、カラカラと音を立てて転がった。
「敵の戦 斧が飛んでくるわけじゃあるまいし」
ドックは広く、それなりに距離が開いているのだが、すぐそばで怒鳴られたほど
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ