黄金獅子の下に
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今夜もドックの明かりは消えそうもなかった。
新帝国歴元年───王朝が変わるというのはこのようなことだった、と深夜にもかかわらずこうこうと昼間の如く明るく照らされている廠でベッカーはしみじみと体感していた。
「おらおら、さっさと動かねえと今日のノルマが終わらねぇぞ」
「休憩くらいさせてください」
「さっきから休憩しかしてねえだろうが……ったく、俺がお前らくらいの年の頃はなあ」
ベッカーお決まりの台詞が出てくると、座ってコーヒーを飲んでいたニューマン達は急いで立ち上がる。彼の話が始まると長いことを知っているからだ。
その間、作業の手を休めることはできても、ベッカーの話は毎度同じか似たり寄ったりで聞き飽きており、絶妙のタイミングで相槌を打たなくてはならず、しかも最後は必ず叱られるのだから、さっさと仕事に戻るのが得策だと知っている。もちろん、それで遅れた分も、お前らがくっちゃべってばかりいるからだ、と叱られるのだから割が合わない。
「主任、駆逐艦が遅れているそうです」
「ちっ……」
渡されたファイルに目を通したベッカーは、忌ま忌ましげに床に投げ付けた。
「あっ、駄目ですよ」
慌てて拾い上げるのはグリムだ。埃がついているわけでもないが、パンパンと払うとベッカーに返してもまた捨てられると思い、小脇に抱える。
「ったくもう、どいつもこいつも、艦が無尽蔵に湧いてくるとでも思ってやがる」
「思っていませんってば、そんなこと」
苦笑いで否定しつつも、グリムも似たような感覚には襲われている。
戦艦が新造されなくなれば仕事は減る。
帝国領内には幾つかのドックがあり、帝国軍の軍艦はそこで作られていた。すべての艦種が作られることはないが、種別にしてそれが一つのドックに固めることもしない。
何か不具合があった時、巡航艦のすべてが使えなくなっては困る。分けてあれば、Aというドックで作られた艦に欠陥が見つかった場合、そのAで作られた艦を艦隊から外して点検と修理をすればよい。
ドックそのものが事故で作業が止まったとしても、やはり他のドックが使える。
ベッカーの働くここではワルキューレなどの小型戦闘機、大型母艦、輸送艦を除く軍艦を作っていた。むろん修理も行う。
大きな会戦前後はどこの製造ラインも不眠不休で、いくら軍部が公表を控えていても「近々でかいヤツがあるらしいな」「今回はかなりヤラれたらしいぞ」とベッカーらにはわかった。もちろん現在、どんな軍艦の注文が入り、何が何隻修理中なのか、箝口令が引かれてはいるのだが、目の前に現物があるのだからどうしたって話題にのぼる。
「それにしても、まさか、こんなことで残業するとは思いませんでした」
「そいつは俺の台詞だ」
「主任も初めてなんですか?」
「当たり前だ。経験のある奴なんかいねえ
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