706部分:第百三話 強大な角その四
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第百三話 強大な角その四
「アーレス様がおられる限りはな」
「はい、それは」
彼もそれは知っていた。それは狂闘士ならば誰でも知っていることだった。それと共に狂闘士達の強さの秘密の一つでもあることだった。
「よく」
「そういうことじゃ。だからこそじゃ」
「安心して」
「眠るがいい。時が来るまでじゃ」
「はい、それでは」
「眠り。そして」
エリスの言葉は続けられる。
「また戦うのだ」
「そうさせてもらいます」
「アーレス様が負けられることはない」
それは絶対にないという。エリスもまた己の主に対して絶対の忠誠を持っていた。それが揺らぐことは何があろうともなかった。
「何があろうともな」
「最後に地上に立つのは我々です」
「思い出すがいい」
話は遥か過去のものにもなった。
「我等がアーレス様の前に集ったあの時を」
「天界において。天闘士であることを止めアーレス様の下に集ったあの時を」
「左様、あの時をじゃ」
まさにその時をというのだ。
「思い出すのじゃ」
「忘れる筈もありません」
遥かな神話の時代だ。だが忘れる筈のないことだった。
「天界の中でも孤立していた我等でした」
「しかしアーレス様だけは我等にお声をかけて下されていた」
「戦いにこそ至上のものを見出している我等に対して」
「お声をかけて下さったな」
「はい」
まさにその通りだった。孤独だったのはアーレスだけではなかったのだ。それは戦いしか見えない彼等もまた同じだったのだ。
「戦いだけでもいいと。そこからも必ず何かが生まれ出すと」
「破壊があればこそじゃ」
エリスはアーレスの司るそのことについても語った。
「創造があると仰られたな」
「如何にも」
「その時のことを思い出すのじゃ」
言葉はこの上なく優しいものだった。それは自分自身の同志であり頼りにすべき僕に対する言葉であった。そう、仲間に対するものだった。
「よいな」
「そして忘れないことですね」
「左様。さすればじゃ」
「また蘇ります」
ドーマはそのことを確信していた。
「アーレス様の為に」
「永遠に共にある」
「そうです、永遠に」
「我等はアーレス様と永遠に共にいるのじゃ」
「次にこの地上を、そしてオリンポスを統べられる方と共に」
「ではな」
最後にドーマに告げた言葉だった。
「さすれば今はじゃ」
「はい、今は」
「眠れ」
一言であった。
「ゆっくりとな。眠れ」
「では」
「また。戦う時にこそ」
「御会いしましょう」
「その時こそな」
ドーマは静かに目を閉じた。その顔は安らかなものだった。
エリスは彼のその死に顔を見届けてから今は去った。また一つの戦いが終わり次の戦いがはじまる。戦いはまだ続くのであった
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