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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百三十一話 捕虜交換(その2)
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と思った……」
呟くような口調だった。気持は分かる、自分も何度も同じような思いをした。
「宇宙を統一する、宇宙から戦争を無くす。そのために邪魔な門閥貴族を潰しました。ローエングラム伯も切り捨てた……。多くの血が流れました、もう後戻りは出来ないんです」
「……」
答える事が出来なかった。宇宙を統一するために、宇宙から戦争を無くすためにヴァレンシュタイン元帥は血を流してきた。私はどうだろう、何処かで逃げていなかっただろうか……。イゼルローン要塞を攻略した後、退役しようとした。あの時本当は和平のために何かするべきではなかったか。政治家の仕事だと何処かで逃げなかったか?
「メックリンガー提督、そろそろ失礼しましょうか。あまり遅くなると皆が心配します」
「それが宜しいかと小官も思います」
ヴァレンシュタイン元帥はメックリンガー提督の言葉に頷くと“ご馳走様でした”と言って席を立った。メックリンガー提督が後に続く。キャゼルヌ先輩もシェーンコップも引きとめようとはしない。席を立つこともしなかった。
応接室を出る直前、ヴァレンシュタイン元帥はこちらを振り返った。
「ヤン提督、自由惑星同盟を、民主主義を守りたいのなら私を倒す事です。但し、私を倒した後貴方が何を得るのか……。多分同盟を守った英雄の名と戦争の激化する宇宙でしょう。楽しみですね……」
そう言うとヴァレンシュタイン元帥は応接室を出て行った。送るべきなのだろう、だが私は彼の後を追えなかった。彼の言った言葉の重さに動く事が出来なかった。同盟を、民主主義を守りたいと思う……。だがその代価が戦争だとしたら私はどうすべきなのだろう。平和を求めるのか、同盟を民主主義を守るのか……。
帝国暦 488年 12月 25日 帝国軍総旗艦ロキ エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
イゼルローン要塞が少しずつ遠ざかっていく。要塞に居たのは僅かに二時間程度のものだろう。サインを一つしただけだがこれで二百万の捕虜が帝国に戻ってくる。後は軍務省に任せておけば捕虜が帰って来るだろう。
ヤンと交換したペンを手にとって見た。良い物なのかな? どうもよく分からん。
「閣下、そのペンがどうかしましたか?」
ヴァレリーが問いかけて来た。彼女は今回総旗艦ロキの中で留守番だった。流石に同盟軍の前で連れて歩くのは拙いからな。リューネブルクはオーディンで留守番だ。装甲擲弾兵総監が戦争でもないのに三ヶ月も仕事を放り出して散歩など許される事じゃない。
ヴァレリーにペンを差し出して今回の捕虜交換の調印式でヤンと交換したのだと言った。彼女はペンを受け取るとじっと見ている。そして俺にペンを返すと“安物ですね”と言った。まあヤンの事だからな、そんなところだろう。俺が渡したペンだってそんな良い品じゃない。
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