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提督はBarにいる。
嗚呼、懐かしの烏賊尽くし・その2
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いのか、朝霜の引き締まった頬は紅に染まり、ユルユルに弛んでいる。

「ん〜♪勿体ねぇなぁ、こんなに美味いのに」

「し、仕方なかろうっ!私は生まれてこの方そのような形の生き物は食べた事が無いのだ!」

 ゴクリと生唾を飲み込みながら、グラーフが反論してくる。そんな彼女の今宵のお供は、ビールでもワインでもなく日本酒だ。

 ビスマルク達の勧めでウチの店を訪れて以来、グラーフは一人でもちょくちょく来店するようになった。時々はドイツ料理を頼むこともあったが、その注文の殆どは和食や洋食……日本独自に育まれた料理の数々。それに日本酒や焼酎等を嗜んで積極的に日本に馴染もうとしていた。最近のマイブームは〆のおにぎりと味噌汁、それに明太子だったか。

 飲んだ〆に必ずと言っていいほどおにぎりと味噌汁を頼み、明太子はその日の気分で焼くかそのままを食べやすくカットして注文される。美しく箸を使いこなして味噌汁を啜り、おにぎりをかじった所に明太子を一切れパクリ。そして美味そうに身悶えする姿は、普段の冷静沈着なグラーフを知る人からすればとてつもなく可愛らしい。そんな『畳化』が滞りなく進んでいたハズのグラーフに突如立ちはだかったのがイカだった。

「サシミやスシはいいんだ、だが……イカやタコだけはっ……!」

「イカやタコ…?はて、何か思い当たる節があるような無いような……」

「店長、恐らくグラーフさんは宗教的な事でイカやタコ、貝類を忌避しているのでは?」

「……あぁ、成る程な。ナイスだ早霜」

 漸く納得がいった。グラーフがイカを拒絶している理由。それは正に、宗教的な理由で『食べた事がない』……正確には『食べられない』のだ。




 ドイツの国民の多くが信仰している宗教はユダヤ教とキリスト教の中でもとりわけ戒律の厳しい宗派だ。食事にも大きな制限があり、「魚介類は鱗とヒレを持つ者のみを食すべし」という教えがあるらしい。ビス子やレーベ達はそんな事も気にせずバクバク食べていたので気にしていなかったが、グラーフは中々敬虔なタイプらしい。

「それがまた、何でいきなり食べる気に?」

「じ、実はその……ホーショーの店でアカギやビスマルク達が飲み会をしていてな」

 聞けば、グラーフはウチに来る前に鳳翔の店で夕食を済ませており、その席で赤城達空母組といつもの呑兵衛軍団がイカを肴にどんちゃん騒ぎをしていたらしい。

「そこで見ていた時は我慢できたんだ!けれど……店を後にしたら段々と後悔が…」

「あ〜成る程、それでイカ尽くしやってるウチに来た、と」

「そういうことだ。しかし、改めて見たらその決心が揺らいできて……」

 まぁ、今まで食べてはいかんと言われてきた物を目の前にしたら、流石にそうなるのも仕方無い。


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