第二章 【Nameless Immortal】
肆 裏/表の接合点
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剄脈筋萎縮性循不全硬化症。通称、剄脈硬化症。
それが自分の身に埋め込まれていた呪いの名前だ。
剄脈硬化症は名の通り剄脈が凝り固まって駆動せず、微量の剄しか生成できない病だ。
遺伝子欠陥病の一種とされ症例も少なく療法は確立されていなかった。
武芸者として望まれていた自分は何度も病院に行った。母が自分で調べたという治療を何年も受けた。
きっと、母にはもう後が無かったのだろう。
ある日、父が教えてくれた。自分の血は、家族の誰とも繋がっていないと。
少し悲しかったけれど、反対に嬉しさもあった。
自分を大切に、愛してくれるのは、血縁が理由では無いということだから。
だから一層の事、彼らの期待に応えられぬことが悲しかった。
ただでさえ貧しかったのに日に日にお金は消えて行った。
日を追うごとに母は窶れ、父との言い争いは増えた。家の中も荒れていった。
剄の使えない武芸者など世間の嗤いものだと父は言った。
時折、縋るように母に抱きしめられた。大事な我が子だと、母は呟いてくれた。
だがそれでも、ずっと武芸者として成長の芽が出る日は来なかった。
ある日、荒れつづけ痩せ続けた母が心配で言葉をかけた。
大切に育てて貰えて感謝している事。皆を愛している事。自分が苦労をかけているのを辛く思っている事。
返ってきたのは、母の平手打ちだった。
二度、三度と掌を返しながら母は叫ぶように告げた。自分が家族と血縁が無い理由を。
――こんな事なら私の子供が良かった。お前のような欠陥品と病院で取り換えなければ、と。
母は貧しい生まれだった。良縁に恵まれず、才も無かった。
縋る思いで武芸者と寝たが、検査では授かった子に剄脈は確認できず、誰からの祝福も未来も無かった。
そんな折、出産のために入院した病院で才能の有る武芸者の娘が生まれた事を母は聞いた。
妄念から母は子供を入れ替えた。その病院が母が嘱託で務めた職場であったのも成功した理由だろう。
周囲から見捨てられ、罪を犯した母はずっと希望を抱き縋っていた。
己の子を見捨てた成果を。その罪を『埋められる』だけの『何か』を信じて。
体の痛みを堪えながら、消えた母を想いながら、涙を流した。
ただただ自分が不甲斐なく、情けなく。
期待に答えられず母を追いつめた己の身を呪った。
母から向けられていたはずの愛。
それを疑う事が何よりも心を削った。疑いかけてしまった自分が、何よりも嫌だった。
自分が怒らせてしまった。ただの一時の激情だ。だから……きっと……
暫くして偶然家に訪れた父に薬を塗られた。気まぐれのような優しさがあった。
父に怪我を見て貰うのは久しぶりで嬉しかったのを
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