第二章 【Nameless Immortal】
参 振り下ろされた兆し
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で行ってくれ」
「そっか、それは残念だね」
全員が食べ終わり席を立つ。支払いをして店を出る。
一同は仕事を求めて街へと旅立った。
数時間後、ルシル以外の三人は路面電車の中に居た。
あれから伝を回り、伝の伝を探し、時折寄り道をしつつ、イベントの事前準備やとある研究補助など幾つかのバイトは確保できた。
ルシルは他の用事があるという事でそこで帰って行った。
残った暇人学生の二人はカノンの観光に付き合っていた。
「飲むか?」
「いや、いいよ」
「ボクは貰うよ。ありがと」
ニールから差し出された熱いお茶をレイフォンは断りカノンは受け取る。
窓の外は既に日が落ちかけていた。人影は少なく、路面電車の中にもほんの数人しか客はいない。
見上げる空は未だ青いが陰を帯びた藍色であり、地平の果てでは陽が夕焼けへと変わっている。
「あの街道は良かったね。小川の畔を歩くようで、ボクは好きだな」
小さくカノンが告げる。
湧水樹が吐き出した水が溜められた池。その水が機械による濾過処理場へ送られる過程にある僅かな水路。
静かなせせらぎが空気に溶け込み、風に揺れる樹木の枝葉が耳を和らがせる。
煉瓦敷きの通りの傍ら、川が流れる様なその横での散策をカノンは気に入っていた。
元々、時間が少ないという事で大した場所は周れていない。一、二ヵ所ほど景観の良い場所を回っただけだ。
レイフォン達からしたら良くはあるが感嘆するほどでは無い光景だった。
それでもカノンはとても楽しげだったのだから、巡ったかいは在ったのだろう。
帽子を外したカノンは息でお茶を冷ます。口元に紛れようとする長い髪を手で除けつつ、静かに茶を嚥下していく。
温かに頬を緩ませ、心を落ち着かせる小さな息を吐く。浮かぶ楽しげな横顔が絵になっていた。
停留所に着いた三人は降りて少し歩いていく。
夕焼けが空を覆っていた。次の場所で今日は最後だ。
誰もが知っている一番有名な場所が見たい。
それがカノンの要望であった。
「多分、一番はあれだと思うよ。知名度としてはだけど」
都市の中央部に辿り着く。
レイフォンが指差した先には生徒会の棟があった。
正確にはそのシンボルともいえる高い時計棟だ。
「……綺麗だね」
目を細めたカノンが感心したように言う。
夕焼けを背とした陰の中、時計棟の上部に付けられた文字盤が淡く輝いている。
どんな時であれ目印になるようにとその光が絶やされることは無い。
事実、都市内の何処であれ、大抵の場合は建物の屋上に登れば時の燈火を拝める。
その旨を伝えるとカノンは小さく頷いた。「拠所だね」と呟き、瞳
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