第二章 【Nameless Immortal】
参 振り下ろされた兆し
[後書き]
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記憶は薄いが、幼少期の私の家庭は一般論から言って「幸福」に該当するモノであっただろう。
父は有力な武芸者で在ったと聞いた。母は気弱だが優しく料理の上手い人であった。
三人家族で温かな料理を囲み、整理整頓の行き届いた綺麗な家で暮らしていた記憶がある。
多少の口喧嘩程度はあったが次の日には仲直りしていた。
笑顔は何も特別な物では無く、普通のものとして存在していた。
記憶は朧ではあるが、その顔を見るのが私はとても好きであった事だけは思えている。
父親の体は堅く、所々に傷痕があった。
稽古で付いた傷、汚染獣戦で刻まれた傷、都市警護で残った傷。
一緒に風呂に入り、その傷痕の由来を私は聞くのが好きだった。
父は思い出を懐かしむように、自分の成果を誇る様に、時折恥ずかしげに私に教えてくれた。
私は武芸者では無かった。この身に剄脈は無く、父の背中を追う事は出来なかった。
父の友人達の家庭にいた武芸者の子供を見る度に、私はそれが酷く惜しかった。
気にするなと父は言ってくれた。お前はお前だと。
だが同僚たちの家庭を、父が子に武芸を教える姿を羨ましげに私の父が見ていたのを覚えている。
きっと、私の家庭は幸せな物であったのだろう。
ある日、父が病にかかり体調を崩した。治りはしたが小さな後遺症が残った。
武芸者としての能力が少しずつ、少しずつ落ち始めて行った。
父は落ち込みはしていたが、母の支えもあり、さほど大きな変化はなかった。
無かったはず、なのだ。
ただ私が気付けなかっただけなのだろう。
家族間の会話が減り、父が笑顔を見せる頻度が減っていた。
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