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霊群の杜
傷痕
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して僅かな軟膏を貰ったが、全身の傷に塗るには全然足りない。
暮れかけた玉群神社の鳥居の奥。石段の半ばに、白いワンピースに身を包んだきじとらさんが立ち尽くして居た。
淡い夕日に透けるような、軽く薄い布だ。鎌を持った鎌鼬が通るかもしれないというのに。
肌に付けば軟膏を無駄なく集められる。とでも思っているのか。思わず唇を噛んだ。
俺を見つけたきじとらさんに、冷たく見下ろされる。…いいさ、覚悟はして来た。
「…もう少し、上の方へ。俺はこの辺で張ってます」
きじとらさんは一瞬、きょとんとした顔で俺を凝視した。次の瞬間、意図を悟ってか、ワンピースを翻して石段を駆け上った。


―――背中の鎌鼬が、ざわめいた。


「…来るぞ、構えて!!」
風はない。鎌か薬だ。飛縁魔は、事件になるような鎌鼬は居ないと云っていた。それなら、鎌は一頭、薬二頭か。俺は背中に意識を集めて呼びかけるように呟いた。
「……『薬』を奪え」
鎌鼬の動きは凡人の俺には見えない。だからこれは賭けだ。視線や雰囲気だけではなく、言葉での曖昧な指示が通るか。
3頭の影が渦巻き、突風となって俺の背から飛び出す。きじとらさんがびくりと震えた。影は鳥居を貫いて閃く気配に躍りかかり、気配が俺の真横を通り過ぎた瞬間、肩に焼けるような痛みが走った。
「がぁっ…!」
思わず声が出た。その声に重なるように、カツンと音がした。石段途中の広間に、小さな瓶が転がっていた。
「……きじとらさん、あった!!」
きじとらさんは突風のように石段を駆け下りて来た。…俺は瓶を拾うと、きじとらさんに向かって掲げた。
「軟膏、ゲット」


きじとらさんが少し首を傾げて、俺を凝視した。…いつも通りに。

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