傷痕
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た奴がその痕跡を完全に消すことは、まぁ不可能だね。だから異常な夢を大量に流し込んで上塗りして、存在自体を忘れさせようとしたのかな」
ぶつぶつ呟いていた奉が、ふと目を上げた。替えの眼鏡フレームは、少し縁が太くてしっくりこない。
「あいつら、何が目的なのだろうねぇ」
―――は?
「何がって、お前を殺すことだろ」
「なにそれ、誰得?」
また生まれて来るぞ俺は、と呟き、奉は片頬に嗜虐の微笑を浮かべた。
「新しい『仲間』が増えるだけなんだよ」
「そういうのはどうでもいいのかもよ。ただの、恨みとか」
「そんな直情的な目的にしては、随分と用意周到…というか冷静じゃないかねぇ」
「何故」
「『弟』とかいうのが夢でお前に語った、俺と奴らの関係性。覚えてるか」
「あいつ側の視点で、いいのか」
ならば…仮に彼らを『弟達』とすると、弟達はいつも怯えていた。△△△が、自分たちを奪いに来る。たまに里を訪れて俺にちょっかいをかけてくる奉は、△△△の使いで、食べごろに育っているか見に来ている。△△△は、小さな子供を取る。奉は不吉だ、奉を殺せ。
「…って感じだな」
俺自身も夢の中では、なんの疑いもなくその関係性を信じていた。あたかも生まれた時から弟達と暮らしてきたように、手元に戻ってくる紙飛行機やら双子貝やらを受け入れていた。なんだ双子貝て。
「違うよねぇ」
まだ、覗き込むように俺を見てくる。
「俺は玉群に『降りる』時、生まれた子供の『魂』を追い出し肉体を乗っ取る。追い出された『魂』は屋敷に溜まる」
―――それだ。
仄かにおぼえていた違和感が、今すとんと落ちた。
奉は嬰児の躰を乗っ取るが、屋敷に住み着いた魂にそれ以上の危害は加えない。むしろ年に一度体を貸してやったり、気持ちを逆なでしないように早々に家を出て洞で暮らしたりと、奉なりに便宜を図っているようにすら見える。
少なくとも、屋敷に宿る『子供達』にとって奉は憎しみの対象かもしれないが、畏れの対象ではない。…と思う。
「子供を取る△△△ってのは、誰の事なんだろうねぇ」
冷めた茶を啜りながら、奉はじっと虚空を眺めた。
「―――少し、屋敷に帰ってみるか」
あれから1週間。
奉の入院が思ったより長引きそうだ、という話を、奉の母さんから聞いた。
綺麗に切れている割に治りにくいらしく、一部の傷を除いて(軟膏を塗った傷か?)出血が止まらないとか。見ている限り、いつも通りのテンション低めな奉だが、点滴の量は減っていない。
鎌鼬の傷は鎌鼬の軟膏でないと完全に塞がらないのだろうか。
だから俺はいつもの石段に来た。
鴫崎はこの石段で何度か『薬、薬、薬』の鎌鼬に軟膏を塗られている。ここは鎌鼬の通り道なのかもしれない。鴫崎には勿論、事情を話
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