血の滴る
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コパコするような奴だ、きっと地の果てまで追ってくる。俺は咄嗟に押入れに逃げ込んだ。…逃げ込んでしまった。逃げ込んだが最後、かじかんだ思考はもう『逃げ出す』事になど及ばない。俺はただ背中を丸めて、細く開いた隙間から四畳半を伺いながら、パニック寸前の状態で声を殺して震えていた。
さっきのさっきまで『もしかして絵具かも』とか『演劇の小道具かも』とか淡い期待を抱いていたけれどもうそんな余地はない。
落ちてきた赤い液体は、フローリングで赤黒く凝固し始めたのだ。
これはもう間違いなく血!もうね、切ないくらい血ィ!どうしようもなく血なのだ!!
『は…破水…しちゃった…』とかも考えたけど、こんな貧乏アパートに妊婦いたら相当目立つと思うし、そもそもお産の血は羊水とか混じってて、こんなネットリタイプじゃないと思う!よく知らんけど!!
お願いだ、来ないでくれ、思い過ごしであってくれ…何度繰り返したか分からない。細く開いてる押入れの襖を閉める度胸もなく、ただ喉がヒリヒリするのを堪えてじっとしていると。
ベランダに、人型の影が差した。
きっ来た―――!!こっこれでもう上で殺人方向のやばい事が起こってたのは決定だな!?
心音が外に漏れ聞こえるんじゃないかってレベルにバクンバクンし始めた。影が差しただけでも怖いのに、そいつの影は背伸びをするようにぐいっと伸びると、ゆらゆらと左右に蠢き始めた。
俺の部屋を伺っているんだ……。
やがて影はぴたりと動きを止めると、すっと屈んだ。その直後、かつ、かつ、とガラスに何かを叩きつけるような音がした。
……ひぃ、ガラス割って入ってくる気だ!!
頭の先からすう…と血の気が引いた。
かしょ…とガラスが地味に割れる音がした。きっとガムテでも貼って派手に割れないように細工したのだろう。やがてドアロックが回る音と、誰かが入ってくる気配。額を、背中を、脇下を、滂沱の冷や汗が流れ落ちた。
みしり、みしり、みしり…永遠に続くかのような、侵入者の徘徊音。奴は一通りそこら辺をウロウロすると、俺の目と鼻の先を通って風呂、トイレの方に歩いて行った。空気が動いて鼻を掠めただけで、尿が漏れそうなほどの身震いが全身を襲う。部屋の奥の充電器に差しっぱなしになっている携帯をぼんやり見ながら、じわじわ後悔の念が沸いて来た。
携帯持ったまま、押入れに逃げ込めばよかった。
そうすればあいつがベランダから入り込むのに苦戦している間に警察を呼べたのに。歯ぎしり出る程悔やまれるが、もう時間は戻らない。
――チロリロリロリン、チロリロリロリン
突然俺の携帯が大音量で鳴り始めた。ビックゥと心臓を掴みあげられたように押入れの中で孤独に跳ね上がる俺。そして奴は慌てて取って返した。…あっぶねぇ…携帯持って隠れてたら今頃
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