ガキの頃に食べた、お袋の味。
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て美人では無いが料理がべらぼうに美味かった。『男は胃袋を掴め』を徹底したお陰で、私は結婚できたんだと常々言っていた。 片栗粉をまぶした豚肉を熱した油に沈める。ジュワアアァ……と揚げ物独特のあの食欲をそそる音が響く。この調理中の音って奴はなんでこう、耳よりも胃袋に響くのだろうか?
ステーキや焼肉の焼ける音、揚げ物の油が弾ける音、焼き鳥や鰻のタレが炭火に落ちてパチパチと弾ける音。聞いているだけで胃袋が締め付けられるような感覚を感じて食欲が湧いてくる。不思議なもんだ。
低めの油で中に火を通し、一旦上げたら油温を上げて高温で二度揚げ。焦がさない絶妙のタイミングで油から上げたら余分な油を切り、食べやすい大きさにカットしたら千切りキャベツと櫛形に切ったトマト、練りカラシを添えて同じ皿に盛り付ければ完成。
「ハイよ、こいつは俺からのサービスだ。『豚の竜田揚げ』、味見してみて感想聞かせてくれ。」
「うひゃ〜、美味しそう!いっただっきまーす!」
足柄が一切れつまんでかぶりつく。ザクリ、というよい歯応えを感じさせる音と共に顔が綻ぶ。
「おいっしぃわねこれ!揚げ方も絶妙だけど、何より味付けがいいわ!」
そう言いながらはふはふと竜田揚げを口に放り込み、そこにビールを流し込む。俺がお袋に作って貰っていた頃はご飯のおかずとして食べていたが、その頃から酒のツマミとしても最高の味だろうと思っていた。ちゃっかり自分の分も揚げておいたので、その一切れにカラシをたっぷりと付けてかぶりつく。ザクリと心地よい歯応えの次にやって来たのは豚の赤身の部分の旨味とタレの味。醤油の味と共に生姜やにんにく等薬味の味がガツンと来たと思ったら、熱が加わって甘味の増した玉ねぎとリンゴ、そして豚の脂身の甘さがやって来る。そしてそれを引き立てるカラシのツンとした刺激。堪らなく懐かしく、そして美味い。
「提督、もしかして泣いてる?」
「バカ、鼻にカラシが効きすぎただけだっつの。」
勿論、突然零れてきた涙を誤魔化す為の嘘だ。柄にもなくノスタルジックに浸ってしまった。この歳になると懐かしさで涙が出るのだと初めて味わった。恥ずかしいから、食べる時は誰も居ない時にしよう。そう堅く心に誓って、再び竜田揚げにかぶりついた。その翌日、俺が涙を流したとの噂が広がり、豚の竜田揚げを求めて飲兵衛共が押し寄せてきたのは、また別の話。
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