第百二十一話
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使ってしまったらしい上に、幽霊についてまで見破られているようだ。どうにもこちらを見透かしてくるようなテッチに、バツが悪くなってとにかく進む。
「こちらばかりカッコ悪いところ見せては、不公平ですから」
「言ってろ……ん?」
苦笑しながらそう付け加えるテッチに適当に返していると、灯りのない通路は徐々に狭くなっていき、そこにはもはや道の先はなかった。分かりやすく言うと行き止まりであり、無駄足だったか――と問われれば、そうでもなく。袋小路になった通路の奥には、二つのつづらが鎮座していた。
「宝箱か?」
「そうですね。アスカ・エンパイアでは」
古来の日本で使っていた、竹製の蓋付き箱。和風VRMMORPGであるアスカ・エンパイアでは、どうやらそれが宝箱の代わりらしい。普通なら喜び勇んで開けるところだが、二つあるということと――その箱の大きさが、大小違うということだった。
「あー……何だっけか。大きいつづらと小さいつづらって」
「舌切りスズメでしたっけ?」
「そうそう、それぞれ」
まず前提として、このクロービス制作――と思われる――このクエストは、アスカ・エンパイア公式が募った、『百物語』の体を繕った、プレイヤー制作による一般公募作品だ。百物語とは、集まったメンバーが百つの物語を話し合い、そして最期には――というそれ自体がある種の怪談だが、大小二つのつづらと言えば、有名な昔話になぞらえた話に他ならない……名前は多少、失念していたが。
「となるとやはり、小さいつづらでしょうか?」
「その裏をかいて……なんて、言ってたらキリがないか」
スズメの世話をしていた優しい翁は、お礼に大小二つ、どちらかのつづらを譲られる。謙虚な翁は小さいつづらを貰うと、その中には目もくらむほどのお宝があった。ただし意地悪な婆さんが改めて大きいつづらを貰うと、そこには大量の妖怪が入っていた――と、そんな話の元ネタだったと記憶している。
謙虚な心を忘れてはいけないよ、ということか。それとも意地悪はいけないよ、ということか。いずれにしても何やら教訓めいた話だが、今この場とは少しだけ状況が違う。こちらはスズメの世話をしていた訳でも、意地悪をしていた訳でもない。
「両方……同時に開けばいいんじゃないか?」
「奇遇ですね、ショウキさん」
どうやらテッチも同じことを考えていたらしく、目と目を合わせて頷きあって、二人で同時に――
「……ショウキさん」
「……テッチ」
――同時に――
「ショウキさんの気配探知と素早さなら避けられますからあちらをどうぞ」
「テッチの方がここの敵に詳しいだろ?」
――同時に、小さいつづらを開けようとそちらに接近していた。同時に開けようとは
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