五月雨の現在(いま)
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りゃそうだ、と俺は口に出しはしなかったが思った。仮にも神経や脊髄等と繋がっている物を除去するのだ。一時的にでも脊髄を損傷したような状態になるのだろう。
「普通の人間の身体に近付いてますから、高速修復剤を使ってすぐに快復、なんて事は出来ませんからね。……当然、お酒も飲めません。」
「ゲッ、マジかよぉ〜……。アタシお酒なしの生活なんて耐えられねぇよぉ〜。」
そう言いながら『天狗舞』の一升瓶に頬擦りしている隼鷹。手術したくない理由が実にお前らしいよ。
「でも、それを乗り越えたんですよね?五月雨ちゃんは。」
そう言って五月雨に微笑む赤城。素面のようだが既に『魔王』の一升瓶が半分ほど減っている。懐かしさで盃が進んでいるらしい。
「はい。どうにかリハビリが終わって、人間社会に溶け込む為にって事で、私は転校生として地方の中学に編入されました。」
「だが、普段の生活なんかはどうしてたんだ?流石に独りで生活ってワケにゃあいかんだろ。」
俺が危惧していた疑問点を率直にぶつけた。艦娘としての数年間の生活があるとは言え、流石に(見た目が)中学生が独り暮らしってのは世間の目もあるし、何より人間社会での常識的な部分が欠けている恐れもある。
「あ、そこは大丈夫です。大本営が募集して選んだ保護者の方に養子に入る形で、戸籍と生活に必要な事を教えて貰える家族を得る形でしたので。」
成る程、あのジジィめ抜け目ない仕事をしてやがる。ただでさえ日本は少子化が問題視されてる。子供が欲しくても授からずに苦い思いをしている夫婦もいるだろう。そんな夫婦に手を差しのべ、人格などに問題なしとなれば引き取れる、といった所か。後は定期的な報告と抜き打ちでのチェックでも入れれば管理は容易になるし、艦娘が身寄りが無くてあぶれる恐れも減る。子供を待ち望んだ夫婦は可愛らしい娘を得られる。三者三様、メリットは大きい。
「……って事は、今は『五月雨』って名前じゃ無いんだねぇ。」
「はい!改めまして、『雨野 五月(あまの さつき)』と言います。」
そう言いながら彼女が取り出したのは免許証。見ると、普通車の他に中型二輪の免許も取得していた。いやはや、あんだけずっこけまくっていたおっちょこちょいの五月雨が、運転免許まで取得済みとは。恐れ入ったぜ。
「地元は田舎ですからねぇ、車とか無いと何も出来ないんですよ。」
そう言って苦笑いしながらグラスの中身を干した五月雨。少しはにかみながらお代わりを頼むその顔は、大人びてはいるが変わっていないように見えた。
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