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提督はBarにいる。
仁義無き唐揚げ抗争
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もいい加減にして!」

 先程まで大人しく早霜にジンジャーエールを頼んで作って貰い、飲んでいただけの羽黒が怒鳴った。普段は引っ込み思案で声を荒げる事なんてほぼ無い末っ子の剣幕に、驚いて固まる那智と足柄。一瞬だが、俺も驚いた。

「普段の態度は今話す事じゃないでしょ!?さっきから提督さんは唐揚げの注文待ってるの!油も温めて準備万端で待ってるのに、何で早く決めないの!」

 その怒り方はまるで下らない姉妹喧嘩を両成敗で収めようとしている母親のようだった。

「す、すまん。だが羽黒……お前はどうなんだ?」

「ふぇっ?」

 二人を怒ってこの場を収めようとしていた羽黒に、思わぬ返し矢が飛んできた。

「そ、そうよ羽黒!あなた一人だけ局外中立みたいな涼しい顔してたけど、あなたがどちらかを選べば多数決で決まるわ!」

 おっとっと、那智に続いて足柄の援護射撃で羽黒に論戦の炎が飛び火したぞ。羽黒は心底嫌そうに、ジンジャーエールのグラスを半分程飲み干して、天井を眺めている。どちらかを選べ、という事か。二人の表情を見るに、どちらも自分の陣営に羽黒が加わってくれると信じて疑わない、といった表情だ。こういうめんどくさい事に関しての酔っ払いの団結力は凄いからなぁ。羽黒、御愁傷様。




「さぁ羽黒、好きな方を選べ。勿論塩だろうがな!」

「何言ってるのよ那智姉ぇ、羽黒の表情を見て解らない?醤油派だって言いたくてウズウズしてる顔よ、これは!」

「決め付けは良くないぞ足柄。ところで羽黒、明日の民間から要請があった護衛任務、私が代わってもいいぞ?」

「あっ!何よそれ、露骨な懐柔策は卑怯よ!」

 この酔っ払い共め、もはや意地の張り合いと化してるじゃねぇか。大体、そういう編成は俺と大淀、秘書艦とでシフト考えて編成してるんだ。おいそれと代えられる訳がねぇだろうに。ってか目の前にいるのが提督だって忘れてませんかねこいつら。

「さぁ、どっちなんだ羽黒!」

「早く言えばそれだけ楽になるわよ、羽黒!」

 目の据わった酔っ払い二人に詰め寄られるが、それで怯むような今日の羽黒ではない。その目には決意の色が窺える、腹は決まっているようだ。

「私が好きなのはーー……竜田揚げです!」

 一瞬静まり返る店内。見ると、早霜が下を向いて小刻みに震えている。どうやら笑いを堪えているらしい。二人も予想外の答えだったらしく、那智は不満げに呻き、足柄は腕組みをして苦々しげな表情を作っている。

「竜田揚げ……なぁ。」

「竜田揚げ……ねぇ。」

「おっ、美味しいじゃないですか竜田揚げ!」

 二人が『違う、そうじゃない』と言いたげなリアクションなのを見て、少し憤慨している様子の羽黒。しかし、那智が決定打を放った。
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