61.第十地獄・灰燼帰界 後編
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ミア・グランドは生きることにこそ価値があると言ったが、それでは目指した場所に辿り着けなかったという結果を背負って永遠に沈んでいく人間に価値はあるのか?
逃した一瞬は永遠になる。
永遠は、死出の忘却というもう一つの永遠でしか忘れることは出来ない。
「ふざ、けるなぁ……ッ!!」
オーネスト・ライアーは断言する。自分が自分になれなかった人生に価値はない。
今、アズたちと共に迎える未来を見ること以外に何も望んではいない自分がいる。
溺れる程の後悔と無力の果てに、望む未来を求めようとしている自分が確かにいる。
これ以上後悔したくないから、後悔しない生き方を模索した。
このまま後悔だけを抱えて沈んでゆく終わりに、満足など出来る筈がない。
「今動けなくていつ動けるッ!?何度俺は俺を裏切ればいいッ!?人生でたった一度の些細な一欠片でいい……もう二度と訪れなくてもいい……だからッ!!」
ある筈の力を振り絞り、落下を始めて身をよじり始める黒竜の背中を力の入らない握力で必死に掴む。もはや脱力のせいで体を守っていた炎さえ消え、全身が黒竜の消えない炎によって呪いのように黒く蝕まれながら、オーネストは涙を流しながら叫んだ。
「俺の望んだ未来を、俺に掴ませやがれぇぇぇぇぇぇええええええええッッ!!!」
それはきっと、オーネスト・ライアーという鉄壁の城から漏れた、本物だった。
――いいよ、言い出しっぺ俺だし。ただ、これ終わったら全力で寝るから暫く起こすなよ。
背中を、冷たいなにかが押した。
= =
黒竜は、オーネストの体が背中から剥がれていくのを感じた。
その理由も、黒竜は知っていた。
焦って攻め込んでくるであろうことも、燃える血を浴びることも辞さずに戦うことも、予想の範疇であり、狙いであった。オーネストの虚脱の原因……それは全身を蝕む血にこそあった。
黒竜の血は唯の燃える血ではない。その内には、『母』が来るべき終末の決戦を見据えて与えたもうた『神殺し』の呪怨が流れている。黒竜がその身を漆黒に染めているのは偶然などではなく、黒竜そのものが神殺しのプロトタイプであるが為の黒い因子こそが所以だ。
同じ血を分けしベヒーモスとリヴァイアサンは、それぞれ黒竜とは別の、しかし決して劣る事はない特異な因子を埋め込まれている。それらもまたすべてが終末の決戦を見越したものだ。
黒竜の全身にも、牙にも、そして血にも、濃密な『神殺し』が込められている。
その血を人間が浴びれば込められた呪いと灼熱にのたうち回って死ぬ。
そして、この血は『神気』を喰らい、無力化することをその本懐とする。
確信はなかったが、
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