61.第十地獄・灰燼帰界 後編
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込んだ反動で原型を留めない程滅茶苦茶な形状になった拳に目もくれず左の拳を構える。
オーネストの一撃は、自らの腕と引き換えに黒竜の背中にある巨大な魔石を確かに粉砕した。これで黒竜の再生力も移動力も随分制限される筈だ。だが、それは巨大な肉体を制御する三つの内のひとつに過ぎない。先程の一撃で更に大量の黒竜の返り血を浴びて全身が燃えている上に右腕一本を失ったオーネストからすれば、これは骨を切らせて肉を断ったようなものだ。
「これで終われるか……ッ!!ぐああああああああああああああああああああああッッ!!!」
まだ足りない――魘されるように体を突き動かして灼熱の血の中から剣を強引に抜き取ったオーネストは、間髪入れずにその剣を鋭く数閃した。瞬間、黒竜の4つの翼の付け根が完全に斬り伏せられ、尾を引く紅の血と共に剥がれた翼が無様に宙を舞った。
機動力は削いだ。反撃の隙も削いだ。後はもう一つの魔石を壊して一気に――。
「――ッ、な、んだ……これは」
すとん、と、膝が落ちた。力を込めて立ち上がるが、凄まじい虚脱感のせいか踏ん張ることが出来ない。これまで凄惨な戦いに身を投じて死に急いできたオーネストが初めて経験する状態だった。
全身を焼く血の炎の熱によるダメージはある。
『贖罪十字』の加重の事も理解している。
それを差し引いても、異常なまでの疲労だった。
更に状況は悪化する。上方から絶え間なく降り注いでいたアズの『徹魂弾』の集中砲火が突如として止んだ。理由は、あえて考えるまでもない。
「アズ……限界か」
上を見上げ、悔いるように呟く。
黒竜に翼による防御一択という状況を作り出したこと自体が本来なら歴史に残る戦果だ。その間にオーネストは黒竜の魔石を一つ砕き、翼を全て切り裂いた。魔石を貫く為に腕一本を犠牲にしたが、最低でももう一つの魔石を壊すために左手は残した。
しかし、これで黒竜は上からの攻撃を気にせずに行動できることになる。今は翼を失ったことで落下を開始しているが、地上に降りればまた地に足の着いた戦い方も出来るし、ここで仕留め損なえばこちらの警戒する『切り札』が待っている。
もう一撃叩き込めば、少なくとも下にいるユグーとリージュでも辛うじて戦闘になるレベルにまで追い詰められるというのに。
なのに、肝心な時に限ってこの体は働こうとしない。
いつもそうだ。オーネストの人生は、肝心な時に一番求めるものがなく、ぼろぼろと得たものが手のひらから零れ落ちていく。残ったのは欲しくもない戦闘技術、知りたくなかった事実、知識、経験、恨み、妬み、畏怖と嘲笑、そして――未来という名の辺獄。
「………ふざけるな」
そんなものを得るために、今まで足掻いてきたのか?
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