61.第十地獄・灰燼帰界 後編
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々しい 美しい
憎い 眩しい
愛おしい 狂おしい
穢れなき
――左様であるか。
――恐れを抱いたことも、警戒したことも、やはりそういう訳であるか。
言葉のようで言葉ではない、意志というエネルギーの奔流の中で、『それ』は納得する。
納得したのならば、後はそれに付随する行動を取るのみ。
――ならばちっぽけな『個』よ、滅せよ。
――その細胞の一片すら余さずこの栄光なる穢れの盤上より消えよ。
――黒竜、我が愛しき子に与えし力では足らぬ。
『それ』の、ぞっとするほど白く、彫刻のように温度を感じさせない指の先に、どす黒く染まった結晶が現れる。『それ』は手を掲げ、その結晶を砕いた。
『それ』の足元に広がる闇より暗き泉のそれに似た液体が結晶から溢れ、彫刻のような『それ』の手を黒くなぞり、泉に堕ちて消えた。
――あれを滅する為の力に集いし我が傀儡たち。
――望まれし力を飲み、望むがままに為せ。
――殺せ、血に狂い、血に狂わされた、哀れでちっぽけな一人の男を。
瞬間、泉の漆黒に無数の紅い光が血管をなぞるように八方に広がり、どくん、と胎動した。胎動は加速しーー思い出したように『それ』が頭を振ると同時に終息した。
ーー口惜しや、これまでか。
『それ』は、もう深紅の霹靂を見ずに手を降ろす。必要な力は十分に送った。殺すべきと決めたことも殺す方法を講じたのも決して偽りではないが、『それ』の行使した力は呼び水程度でしかない。
――真なる終末の日まで、これ以上の干渉はできぬ。
――これ以上の介入を行うとするのなら、それは黒き翼が髄まで散ったその刻のみ。
――或いは。
一瞬、紅き霹靂の背後に控える黒套の、死より死に近い人間に目を細める。
男は既に力尽きたように膝から崩れ落ち、その懐から一本の鎖が零れ落ちる。
人間はそれを見届け、何かを呟き、そしてこと切れるように氷柱の上で倒れ伏す。
――……………。
『それ』は、刹那の思考を止め、再び目を閉じて悠久の眠りへと戻っていった。
= =
雷が煌いたと認識したその瞬間には――既に、『徹魂弾』の雨を潜り抜けたオーネストの刃は黒竜に突き刺さっていた。
神聖文字とオーネストの血によって強化されたヘファイストスの直剣は、周辺をプラズマ化させながら炎に包まれた黒竜の二つの翼を貫通し、背中にその刃を届かせていた。
「ッッオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
雷から人へと肉体を強制的に戻したオーネストが犬歯を剥き出しにして獣のよう
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