61.第十地獄・灰燼帰界 後編
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勘違いするなよ、■■■■。
これは貴方が望んだから使っているんじゃない。
ただ――ただ、もう少しその行く末を見ていたい馬鹿がいて。
それで、その馬鹿の未来に邪魔な黒蜥蜴がいるから仕方なく使ってるだけだ。
激しく紫電を迸らせる全身を真下で防御する黒竜に向け、剣先に意識を集中させる。
『万象変異』――雷。雷の速度と俺の罪科の重力加速、そして剣の三重刺。
今考えうる、今の俺が繰り出せる最大貫通力の貫撃。
(これで貫けなきゃ、後は本当に死ぬだけだな。死ぬだけ――狂おしくなるほど待ち望んだ俺の終焉。そこに飛び込みたかっただけなのに、アズの奴め。あいつがいると死を望む自分が白ける)
不思議だ。あれほど熱狂した戦いだったのに、自分以外の人間が関わると熱が冷める。
今、こうして切っ先を黒竜に向け、背に巨大な十字架を背負った今でも、微かの熱もない。
――いいや、違う。熱はある。
次の瞬間に、確実に、全力を以って致命の一撃を叩き込む。
鋼にも似た決定意志。それはつめたいが、その形状は鋼をも溶かす熱で形作られる。
ならばそれは、俺の意志だ。
俺は、確かにこの胸に存在する熱に魘されて黒竜を穿つ。
「脆く儚き我が身よ、煉罪の深紅き霹靂となりて漆黒を穿て」
その瞬間、ギロチンが振り下ろされるような速度で落下を始めた『贖罪十字』の底を蹴り飛ばし、オーネスト・ライアーという男は『雷刃』へと変貌した。嘗ての英雄たちも成し得なかった限界を越えた加速が生み出す刃の威力を以てすれば、それは虚言となりえない――力の身の捨て身を上回る、技術を重ねた捨て身の一撃だった。
人間でありながら雷であるという、この世に起こりえない『奇跡』という副次効果を携えた一撃の意味を、オーネストはこの瞬間だけ忘れていた。
= =
どこまでも果てのない黒と、どこまでも際限のない闇が波打つ泉の中央にいた『それ』は、どこか遠い場所から投影される深紅の霹靂を見つめる。覗き込んだ者を引きずり込むような深淵の淵のような眼光には、人間の言語ではまだ説明のできない狂気的な意志が渦を巻いている。
――金色の御髪、金色の眼。
――溢るる力は矮小なる人間のそれではない。
――ああ、なんと。
忌まわしき
呪われし 恐ろしい
祝福されし 暖かい
異端的な 妬ましい
偉大な 羨ましい
悪魔的な 悍ましい
神
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