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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 37
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立てられるだろう。私達が足を掬われれば、あらゆる危害が民へ領地へ降り注ぐ。だから、保護対象にどんだけあくどく見られ嫌われようが、託されたものを護りたいと願えばこそ、私達は与えられた地位や権力を最大限活用して己の保身を図る。逆に言えば、権力を平然と振り翳す図太さや度胸や計算高さが足りない真っ当な奴は、決して国の盾にはなれないのさ。……ああ。マルペールのお門違いな愚行を擁護するつもりなら微塵も無いぞ。私が言ってるのは、国を護る自覚を持った人間の話だからな。大切な物を奪られた腹いせで身内に牙を剥いた短絡的ド阿呆は論外だ論外。一緒にされると非常に大迷惑なんで、其処んトコ誤解しないように。つっても、マルペールの心情まで否定するつもりも無いが」
 「はっ……薄汚い人間同士、結局気が合うんじゃない?」
 「いや、この場合は生物としての共感だな。獣でも自分の大切な物を奪られたら怒り、突然失くしたら心配して探し回るんだ。他者への八つ当たりは最悪だが、かと言って形見を奪われた奴のやるせなさや憤り、不安や悲しみを軽く見るのはあんまりだろ。表に出せば悪利用されかねないから潜めちゃいるが、強欲で傲慢と罵られる権力者にだって、それなりの情はあるんだよ。けど、だからこそ時には己の良心に反した決断を下さなきゃならん局面も訪れるし……此処は此処で結構辛いんだぞ? なぁ、ハウィス=アジュール=リアメルティ。ミートリッテ=インディジオ=リアメルティ」
 「!」
 唐突に正式名を呼ばれ、ハウィスは肩越しに己が仕える主を振り返る。
 彼は緩慢な動作で母子へと足先を向け、若葉色の目をアーチ状に細めた。
 「裁きの時間だ。心優しき高貴なる罪人達」
 一歩右へずれて立ち、神父と暗殺者の頭上で左腕を真っ直ぐ横に伸ばして微笑む。頑是無い幼子へ言い聞かせるように優しく、告げる。
 「対象は、アルスエルナとバーデル両国に無断で国境を越え、国家転覆並びに世界規模の混乱と大虐殺を策謀・実行した大罪人、暗殺者イオーネ。卿らの手で、即刻粛清せよ」
 「!!」
 ハウィスの肩が大きく跳ねた。見開いた瞳が、唇が、体が、目に見えてガタガタと震え出す。
 「あは……愚かな殿下。私達がアルスエルナの一地方を狙い定めたと知らせた時点で、バーデル軍は私達の行動に疑問を抱いているわよ? 突然アルスエルナに執着を見せ始めたのは何故かとね。そんな組織の首領をお前達が殺せば、どんな罪状を持ち出したところで更なる疑惑を育てるだけ……」
 「首領を殺せば、な」
 イオーネの顔は見もせずきっぱりと言い捨てる王子に、小麦色の眉が片方跳ねた。
 「バーデル軍に売ろうとしてたのは『シャムロックに付随するアルスエルナ国内の現状』と『義賊を匿う王族に混乱する社会情勢』と、もう一つ『バーデルを荒らした暗殺組織の現首領が、義賊被害者の
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