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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 37
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前達アルスエルナの王族も! 正気じゃない!」
 「はっはっはっ。個人の都合で国をぶっ壊そうとする暗殺者には言われたくないぞぉー……っと。そういやさっきも、腐った塵屑とか散々な形容してくれてたっけか? ま、どっちも否定はしないが。寧ろ誉め言葉?」
 「……どういう意味よ」
 「生物の意思は常に千差万別、変幻自在だ。海へ向かって集い流れる川でありながら、ふとした拍子に飛び跳ねて土に吸収されたり蒸発したりする水粒でもある。右を向けば左が乱れる群集を列として纏め上げるのに、純粋なだけのイイコちゃんは役立たずって意味」
 イオーネの瞳が徐に大きくなるのを見て、王子は笑みを深める。
 「人間はさ、自分にとって都合が悪くなる要因がちょっとでもあると、一も二も無く拒否態勢を整えるんだよ。例えば、民衆が謳う美徳はいつでも『真っ先に身を削って皆を助ける英雄様』だろ? 勇者が矢面に立って苦しむ姿には同情するが、寄り添い労り感謝を捧げるのは必ず結果を出した後。皆の為にどれだけ心を砕き命を懸けても、民衆にとって良い結果を出せなきゃ『勝手に頑張って勝手に死んだ、名も知らぬ愚かな誰か』だ。恐怖・遠慮・謙遜・足手纏いを理由に「自分達を護る戦い」を勇者へ丸投げして逃げた卑怯な自分とは向き合いたくないんだろうな。だから勝利した勇者に対しては満面の笑顔でよくやってくれたと持て囃すが、敗北した勇者に対してはそれ見たことか身の程知らずがと徹底的に扱き下ろし、自身の「戦わなかった選択」を正当化する。これ、政治でも同じでな。任された領地と其処に住むもの達の生活を保ちつつ外敵との激しい攻防を毎時毎分繰り広げる領主達に、領民は「税を取り過ぎだ、節約しろ、交通の便を良くしてくれ、規制を緩和しろ、いやもっと締めろ」と、それぞれが身を置く世界の主観に基づき、自分にとって都合が良い主張を突き上げて来るんだ。それらが叶わないと知るや、自分の意見が通らないとは裏があるに違いない、自分が望む結果を出せないあの領主は無能だ、とまぁ本当に口さがない。普通さぁ、命を奪い合う剣戟の最中に後ろから「喉が渇いたので水を下さい」と言われて「はい、どうぞ」と直ぐ様差し出せるか? 誰がどう考えたって不可能だろ。施政者は一瞬で敵を撃退したり、限られた資源を望まれるだけほいほい振り撒ける万能の神じゃない。だが、民衆には身を削って税を納めてる自負があるから、領主も身を削るのは当然だと考えてる。結果、施政者と彼らに追従する騎士を護る存在が居ない事実に目を伏せる。自分達の言動が自分達を護る盾を傷付けてる現実に目を瞑る。じゃあさ。施政者達は自分で自分の身を護るしかないよな?」
 「……王候貴族が権力を笠に着るのは、当然の権利だと?」
 「その通り。剣であり盾である限り、私達のたった一言、たった一つの仕草が、民の生活基盤を揺るがす弱味に仕
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