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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 37
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全部は話してなかっただけだ」
 王子は騎士達の輪を抜け、もがくイオーネの一歩手前で片膝を突いた。
 恐怖に揺れる銀の虹彩を覗き込み、首を傾けて優しく微笑む。
 「お前も暗殺者なら、一度は聴いてるだろ? とある二人には絶対手を出すな! とかいう、裏世界最大の禁忌」
 「な、に」
 「ん? あれ、知らないか? 大戦より何十年も昔、世界各地で荒稼ぎしまくってた無敵の傭兵王達の話だよ。「姿を見たらとにかく逃げろ。声を掛けられたら明日は無い。長生きしたいなら間違っても目を合わせるな」ってヤツ。日常的に体の何処かを自身以外の血で濡らしてた『鮮血のコルダ』と、全身に真っ黒な武具を備えて戦う『黒焔のタグラハン』。この二人共に認められた世界で唯一人の愛弟子が、今此処でお前の首を絞めてるアーレストなのさ。ほんのり人間辞めてるっぽい力も持ってるし、多分、やろうと思えば人間殲滅とか簡単にやれるぞ。聖職者であると同時に、世界最強の戦士でもあるってワケ」
 「な……っ 争いを嫌悪するアリア信仰の神父が「戦士」!? そんなバカな! ありえない!!」
 「意外か? だよなぁ。信仰対象が慈愛の女神で、教義の根幹が「争い大嫌い」だもんなー。こんなに判りやすい矛盾じゃ、否定したくなる気持ちは解らんでもない。私も最初に聴いた時は微妙な気分だった。けど、冷静に考えてみろよ。聖職者は女神の教えに従っちゃいるが、女神と同じ創造や癒しの力は持ってない。所詮、ただの人間だ。根っこから考え方が異なる国や宗教が乱立する世の中、女神アリアが争いを嫌うからと言って自衛目的の武力まで放棄してたんじゃ生き残れないし、結局誰も何も護れないだろうが。『無抵抗な神父達が幾人も殺された開戦の悲劇を、二度と繰り返させてはならない』。こいつは当時の反省を活かして用意されたアリア信仰アルスエルナ教会の奥の手で、今回同様の騒ぎが起きた際、お前みたく影でこそこそ動き回る人間を引っ掛けて捕まえるのがお役目っつーコト。勿論、普段は争いを嫌う敬虔なる神父様にして優秀な教師様だけどな。戦士の力を振るうのは特定人物……アルスエルナの国王、王太子、二人の師匠、次期大司教、私のいずれかから許可が下りた時のみだ。女神の愛を唱い広め続ける為には大嫌いな暴力を身に付けるしかなかった……なんて、健気で泣かせる話だろ?」
 「自衛……? 冗談じゃないわ! こんな化物、お前達如きに制御できると本気で思ってるの!? コイツの本性は……ッ」
 「できる。多少の問題は否定しないが、アーレストは総ての生命を愛しているからな。簡単に壊れたりはしない」
 立ち上がり、イオーネを覗いたままぴくりともしないアーレストの頬に左手を当て、柔らかく微笑むエルーラン王子。赤子をあやすような目付きが、イオーネの顔を更に引き攣らせた。
 「狂ってる……アリア信仰も、お
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