第一章 天下統一編
第七話 叙任
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吉は声を荒げ俺に対して怒鳴りつけた。石田三成も大谷吉継も秀吉の様子に驚き身体を強張らせた。俺も心臓を握り潰されたように呼吸が苦しい。だが、俺は気を張って秀吉から視線を逸らさず真正面から秀吉の顔を見た。
「殿下、根来衆は小牧・長久手の戦いで殿下に反逆しました。ですが、それは過去ではございませんか? 武家の者は親子で敵味方に分かれ殺し合うこともあれば、不倶戴天の仲であろうと過去の恩讐を捨てともに轡を並べ闘うこともあります。力ある者なら家臣にすべきです」
「根来の者達がお前の父、家定を殺しても同じことを言えるか?」
秀吉は睨めつけるような目で俺のことを見ていた。だが、その目は俺を探るような目つきだった。
俺は自問した。俺の家族が根来衆に殺されたら。答えは許せないだろう。豊臣家の家臣には根来衆に殺された者達もいるだろう。だが、この時代においてそれは日常茶飯事だ。秀吉だって明智光秀の旧臣を召し抱えている。一々私情で皆殺しにしていたら、何時までたっても俺の勢力は大きくならない。そうなれば俺は史実通りに死ぬだろう。俺は生憎と死ぬつもりはない。
「恨みは抱きません。その者を召し抱えます」
池田輝政は自分の父を殺した相手を憎むどころか、その主君である徳川家康に加増するように嘆願した。池田輝政の行動が正しいか分からないがこの状況では良い先例だと言える。この史実はもっと先の未来の出来事だから先例と言うのは言葉の誤りだな。
「戦場で死ぬは武士の本懐です。父が武士として死んだのなら、私は遺恨を抱かず父の死を悼むことが父の死への手向けとなりましょう」
俺は神妙な表情で秀吉のことを見た。その状況に陥った時、こんなことが言えるか分からない。だが、俺が武士と出世するにはそうしなければならないだろうと思う。徳川家康だって一度は殺されかけた甲斐武田旧臣の多くを家臣として迎えている。俺の考えは間違えていないだろう。
「卯之介、良い顔をしおる」
秀吉の顔からは嘘のように怒りは成りを潜めていた。秀吉は俺を試したのだろうか。あまり気持ちがいいものでない。
「岩室坊の者達の件は好きにするがいい」
「殿下、ありがとうございます!」
俺は秀吉から許可を得て感謝の言葉を口にした。秀吉は慇懃に頷き口髭を弄っていた。
「佐吉、卯之介はやりおると思わないか。伝手も禄になく家臣を集めている。儂は実家と小出家頼みと思っておったから余計に驚いておる。それにお前に扱き使われてるおるからな」
秀吉は苦笑しながら石田三成を見た。彼の表情は上機嫌そうだった。石田三成は澄ました表情で「仰る通りにございます」と答えた。その淡泊な反応に秀吉は溜息をつき俺に視線を向けてきた。
「卯之介、できるだけ家臣を多く雇っておけ。何かあった時に兵が足らな
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