ちょっとだけ、提督の昔話B
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に聞いたら一発だったよ。」
ま、口のききかたに気を付けろ!って怒られたけどな。と、苦笑いする男。目の前の老爺が海軍のトップだと知りつつも、その態度は微塵も変わらない。図太いと言うかなんと言うか……それだけでも凄い奴だと私は思ったよ。
「で?その元帥閣下の持ちかけてきた勝負だ……何企んでやがる。」
「ふ……はっはっは!お見通しだったというわけか。よかろう、儂はこの勝負でお前さんを負かし、提督にするつもりじゃ。」
「お……おい!そんな事を言ったら…!」
「大丈夫じゃ、安心せい。この若造はそう言われる事まで読んでおるよ。その上でこの勝負を受けとる。」
「ま、そう言う事ですよ。アンタは立会人だ、黙って見ててくださいよ『教官』殿。」
男に釘を刺され、私はただ見守る事しか出来なかったよ。
勝負は終盤戦、いよいよ詰みが見えてきそうな場面だ。互いに緊張感からなのか汗が額に滲んでいる。それを拭う事もせずに盤面を睨む二人。ただ見ているだけの私でさえ、息が詰まりそうだった。
手番は元帥、しかし駒を挟んだまま動く気配がない。差す直前の体勢のまま、長考に入った。3分…5分……と時間だけが過ぎていく。と、男が瞼に垂れてきた汗を嫌って拭ったその瞬間、元帥が漸く差した。男も取った駒から歩を一枚取り、差した。
「ん?それは二歩ではないか?」
「あ?二歩だぁ?んなワケが……あ。」
それは呆気ない幕切れだった。男の気が緩んだのか、二歩などという素人の犯してしまいそうなミスでの反則負け。
「よし、決着はついた。お主の転属に関しては追って書類を渡そう。」
元帥がそう言って立ち上がろうとした瞬間、男が元帥の右手を掴んだ。
「なんじゃ?何か文句でもあるのか?」
「いや、文句はねぇさ。油断してたのは俺だ……ただし、この右手に金将が入ってなけりゃ、な。」
「さっき二歩を指摘された時、妙〜な違和感があったんだ。んで、今盤面をよく見直して気付いた。……金将が3枚しか見当たらねぇ。」
男の指摘で私も漸く気付いた。確かに、互いに2枚ずつ……都合4枚あるハズの金将が3枚しかない。
「さっきの長考、俺に隙を作らせる為に待ってたんじゃねぇのか?そして差すと同時に手の中に握り込んでいた歩と金将をすり替えた……違うか?」
元帥は微動だにしない。見ると、先程よりも右手に力がこもっている。僅かな隙間から木材らしき物が見えた。男の予想通り、元帥は金将を握り込んでいる。
「ほぅ、面白い推論じゃ。だが……もし万が一この右手の中に金将が無かったら…その落とし前どう付ける?」
しかし元帥の胆力も流石だった。金将が手中にあるにも関わらず、素知らぬ顔で逆に圧をかける。睨み
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