響ノ章
写真帖
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薄く笑った。
「否。私は、尊敬している」
急速に熱が冷めていく感覚。脳に集まった血が全身へと流れ、知らずの内に握りしめられた拳を開く。
「誰かがやらなくてはいけない事だ。それは、あやつが覚えていなければならないものだ。それを奴は確かにやっている。其れ以上の事があろうか」
「じゃあ何でそんな事を言うんだい?」
「奴の願いだろう。それを見て確信した。奴こそが背負う物と信じて奴だけが忘れないのであればお前達の責務は何だ? 戦う事だろう。お前はそれを覚えていなくていい。覚える必要があるのはその足を止めぬ為の感情だ。怨嗟や快楽といったな」
それが提督の望んだものだとしても、姫は私の質問に答えていない。
「何で姫がそんな事を言うんだい?」
姫は少し間をとって、ゆっくり語りだした。
「それを見てしまったからな。見てしまった以上、私は憎まれねばならぬ。それに、すまぬな響、お前を試していた。激昂して私を殺しに来るか試した」
「私は憎まない。誰も」
私の言葉に、姫は僅かに顔を歪ませる。
「分からぬ、分からぬ。此処に生きる者も、此処という場所も」
それだけ言うと、姫は視線を窓へ向けた。その先には海が見える。それは、嘗て姫が居たところだ。
「戻りたい?」
「もう、何処にも私の居場所はない」
何処にも居場所がない、か。確かにそうかもしれない。だけれど私はそれに肯定する事も否定する事も出来ない。
結局その日はそれでお開きとなった。
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