響ノ章
写真帖
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貸して」
姫は堪忍したように本を渡す。結構な大きさだ。厚みもかなりあり、普通よりも厚みがある写真帖のようだ。私はそれを床に置いて開こうとするが、姫に止められる。
「床で開くつもりなら止めておけ。せめて机でするんだ」
妙に注文が多いが、確かに本を床で開くのも何なので提督の机の上で写真帖を開く。適当に開いた頁(ページ)は、見た目の通り写真が張られていた。写っていたのは艦娘だ。ただ、写っている相手に私は驚きを隠せない。
「嗚呼」
嘗ての、伊隅に居た頃仲間だった者達だ。よく見れば写真の外に日付と伊隅にてという文言、それに撮ったであろう者の名前が、白木と書かれていた。日付は一年以上前。そういえば、白木提督は伊隅に居た頃、時たま写真を撮っていたこと思い出した。
「何だ、ただの写真帖じゃないか」
姫は何も言わない。私は次の頁を捲った。また別の艦娘だ。見開きのもう片方には工廠に勤めている人間達が写っていた。頁を捲っていっても同じような写真が続く。確かに働いている人間という意味では機密情報かもしれないが、姫が読むなと言った理由が分からない。私は全部を見る気はなかったので、適当な頁に指を指し、何頁も捲った。そうして其処にあったものを眺める。上に写真、艦娘の物。下には文章が連なっている頁を開いた。私は特に気にせず数頁捲る。どうやらこれ以降はこのような形の頁が続いているようだ。私は何気ない頁で書かれている文章を読んだ。書いてある文は出生や個人に関する事だ。戦歴もある。確かに機密情報だ。姫はこれを読んだからばつの悪そうな顔をしたのだろうか。
読み進めている途中、動悸がし始めるようになった。何か違和感がする。否、理由は分かっている。ただ、頭が理解を拒否する。だから目は文を追っていく。止められない。そうしてそれは最後まで読み切るまで続けられ、その文字が入ってきてしまえば理解せざるを得なかった。死亡、と。
「嘘」
見開きのもう片方の頁を流し読む。そうして次の頁を読む。そうして次も。我慢がしきれなくなり、何頁も捲っていく。そうして気づいた。この形で書かれている艦娘は全て、戦争で亡くなっていたと。
赤城……これが、彼が写真を撮っている理由だったの?
「これ……これって」
「呪いだよ、それは」
姫を振り返る。写真帖を見る目はどこか悲しそうだ。
「以前、それを開いていた提督を見た。それは何だと尋ねた私になんと返したと思う? 忘れてはいけない物と答えたよ奴は」
ぞわりと背筋が粟立つ。僅かな気持ち悪さで体が眩んだ。読んだ文章が脳内で繰り返される。誰が何処でどのような作戦中に何故死んだのかが浮かんでは消える。そうして同時に、今年に入ってから戦った深海棲鬼達を思い出す。その中の何人もの、人としての生き様がここにあった。否が応でも深海棲鬼が嘗ての艦娘だという
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