暁 〜小説投稿サイト〜
珠瀬鎮守府
響ノ章
写真帖
[1/5]

[8]前話 前書き [1] 最後
 翌日には提督は意識を取り戻していたが休養の為病床を立つ事は叶わなかった。本人は業務に戻る気しかなかったようだが医師総出で止めたらしい。本人は至って残念そうだったが、件の看護師は退院予定をもっと遅らせるか本気で心配していた。私の心境は看護師の意見に近い。帽子や制服で隠れていない、薄い病衣を来た提督は目に見えて衰えていた為だ。この状態で立って執務室に向かおうものなら私も押し留めることを手伝う。冗談のようだが、提督は目が覚めた時看護師の目を盗んで提督執務室に戻ろうとしていたらしい。
 ただ、看護師曰く病態そのものはそれ程心配する程ではないらしい。弱っている体を十分に養えばすぐにでも退院だとか。問題は本人がまたとんぼ返りして来そうな精神的な部分だろう。これも看護師が言っていたのだが、柏木提督も勤務初めはこんな具合だったらしい。あくまで医師からの又聞きらしいが。
 兎角数日は提督が帰ってこない旨を伊勢に伝えると、彼女は迷いながらもそれを姫へと伝えた。伊勢も姫の監視については同意してくれたので、これは艦娘……いや、私達から彼女への信頼がある程度は構築されたという事だ。提督が来ないと伝えられた姫の返答はいつもどおり簡単なものだったが、何処と無く残念そうな気がしたのはきっと見間違いではない。姫もあの階でずっと一人きりだと気が滅入るのだろう。執務室には以前は時折鳳翔さんも顔を見せていたが、提督が居ない今鳳翔さんは顔を見せる理由がない。言わば一人ぼっちだ。そんな姫が数日の後、私が二人分の昼食を持って姫の部屋を訪れた際そんな言葉を発したのは、そろそろ暇が限界か、或いは誰かと話したかったのか。
「提督の執務室、この数日誰も入っていないだろう? 埃も溜まっていよう。掃除してもよいか」
 姫も随分とこの生活に順応したものだと感心する。姫は自身の部屋の掃除は自身で済ませているし、郷に入れば郷に従うと言った彼女の言通りだった。
「いいよ。私が立ち会う。少し時間の空きがあるし」
 了承した私の前で姫が昼食を摂る前に扉が叩かれる。出迎えた私の前に居たのは鳳翔さんだった。
「こんにちは響ちゃん。姫さん、最近お暇ではないですか?」
「否、本を読んでいるからそうでもない。ただ少し気が滅入っているのは確かだ。まぁ、その事に関して文句を垂れるつもりはない」
 そう、とだけ鳳翔さんは言ったきりだった。気まずい沈黙を破るために、鳳翔さんに質問をする。
「提督がそう言ったの?」
「ええ。姫が暇しているようなら直ぐ様退院すると」
 まだ寝ていればいいのに、そんな事を私は思った。結局口で言うことはなかったが、姫は我慢が出来なかったのか、それとも私とは立場が違うからか口にした。
「気にするな寝ろと返答しておけ。伊勢に話を聞くに、碌に寝ていなかったようでないか。てっきり執務室で睡眠を取って
[8]前話 前書き [1] 最後


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ