Chapter 1
[4/4]
[9]前 最初
彼女とは、結婚前からずっとそんな接し方だった。
それは、心が本当に通じてないとか、そういう問題ではなくて、人間の距離感というものが、総じてほどよい気がして、何の違和感もなかった。
「俺は別に偉くなりたいとかじゃなかったのに、どうしてこうも、忠誠心が高いのかって、ほんと自分でも関心するよ」
「ふふっ」
「ただ言い訳するとさ、いろんな条件ってのか、制約があるから、ゲームみたいなもんなのかね、て思ったりもする」
「ゲーム?」
咲子も一本あけて、ほのかに頬が薄桃色していた。
「そ、だってただ平坦な道をボタン押して歩ってくゲームなんてないじゃない、なにか色んな障害物乗り越えるから楽しいんでしょ、それと一緒、みんなゲームは楽しいってするのに、社会では誰が悪い、何がまずい、みたいなことばっか言うから」
「悟りね」
「悪い意味?」
僕は彼女の見澄ましたような口調がいやで、そう聞き返した。
咲子は飛び切りの笑顔になった。
「いい意味だよ、すごく、」
僕はその答えに、ただ力なく笑った。
暗い照明の中、彼女の顔、徐々に影のようになって、表情がぼやけるようだった。
「あれ、猫どした?」
僕は座ったまま首を伸ばして居間を見渡した。
「ねこ?」
「あいつだよ」
「やだ、なんで急に変なこと言って」
咲子は弾みのある笑いを交え、
「猫なんていないでしょ、もう、酔ってる」
僕はそれで一瞬、自らの視線、それは、薄暗い居間という現実を見ていた視界が、ふいに脳の中をぐるりと巡るような、奇妙な錯覚を感じていた。
朝、目覚めると、窓の外、けたたましい小鳥の囀りが聞こえてくる。暑くて寝苦しい夜だった。夜中にリモコン探り当てて、クーラーをかけた気でいたけど、すでに停まっていた。
三毛猫が僕の頬のあたり、ざらざらした、小さなベロで舐めていた。
つづく
[9]前 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ